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<表層深層>「小出し」に野党攻勢 政権、教団問題と「二重闇」


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 話にならない

 自民党が派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、衆院の政治倫理審査会開催に向け一策を野党に提起した。派閥解散を宣言した安倍、二階両派幹部の出席だ。苦境に立つ岸田政権へ圧力をかける野党は、要求と異なる小出しの提案と見透かし、批判を強める。2024年度予算案の衆院通過をにらんだ駆け引きはぎりぎりまで続く。 「話にならない。やっぱり自民党にはやる気がない」。20日、国会内。野党4党による国対委員長会談を終えた立憲民主党の安住淳氏は記者団の前で怒りをぶちまけた。

 会談に先立ち、立民には自民から連絡があった。「安倍派の塩谷立座長と二階派の武田良太事務総長は政倫審に出席する意向がある」

 しかし野党が自民に投げていたボールはもっと高かった。出席要求は「派閥からの還流を政治資金収支報告書に記載しなかった現職82人のうち全ての衆院議員51人」だった。安倍派「5人組」ら幹部や、二階俊博元幹事長も含んでいた。

 安住氏は、内閣支持率の低迷にあえぐ岸田文雄首相の現状に言及すると、自民の対応をばっさり切り捨てた。「危機感が伝わらない。これで国民の不信感が収まると思ったら大間違いだ」

 黄信号

 首相の指示を受け、自民執行部は19日から政倫審開催へ向け動いていた。森山裕総務会長や小渕優子選対委員長らが、5人組の1人である萩生田光一前政調会長や二階氏ら関係議員の事務所を訪ね政倫審出席の意向を聴取。その結果、塩谷、武田両氏から出席意向を取り付けた。

 だが野党の要求とは大きく隔たる。自民幹部は「野党の言い分ばかりを聞いて、あしき前例をつくるわけにいかない」と主張するが、このままでは予算案の23年度中の自然成立が確実な3月2日までの衆院通過に黄信号がともりかねない。

 自民は20日、予算案採決の前提となる中央公聴会を27日に開きたいと伝えた。この日程だと官報への記載といった事務手続き上、21日に開催を決定しなければならない。自民国対筋はそれまでに政倫審開催の与野党合意を得る必要があると指摘。「とにかく時間がない。21日は、予算案の年度内成立と政倫審開催を巡る事実上の最終期限だ」と焦りを募らせる。

 綱渡り

 「21日のデッドラインまでに塩谷、武田両氏以外の政倫審出席を野党に伝達することもあり得るな」。自民執行部の一人は周囲に明かす。とはいえ仮に野党に譲歩しても、政権が現在の難路から抜け出せるかどうか見通せない。野党は、出席議員の答弁が不十分ならば、予算委員会での参考人招致や証人喚問も視野に入れているためだ。自民の対応が不誠実だと判断した場合、議員辞職勧告決議案の提出も念頭に置く。

 加えて、20日の衆院本会議で不信任案が否決された盛山正仁文部科学相と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る疑惑も完全に払拭されたわけではない。立民幹部は「攻めまくる」と断言する。

 裏金事件と旧統一教会問題という「二重の闇」が広がる政権。閣僚経験者は嘆息する。「抜け出すのは容易ではない。国会の運びと政権運営はずっと綱渡りだ」

(共同通信)