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与党‐説明演出 野党‐追及の場 政倫審「妥協の産物」 実効性、制度不備指摘 地方自治体では外部審査も


与党‐説明演出 野党‐追及の場 政倫審「妥協の産物」 実効性、制度不備指摘 地方自治体では外部審査も 地方自治体の政治倫理審査会制度
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院の政治倫理審査会が近く開催される見通しとなった。地方自治体では、外部の有識者による審査導入など実効性担保を目指す動きがあるのに対し、原則非公開で偽証罪にも問われない国の政倫審。専門家は、追及の場を確保したい野党と、応じた実績さえつくれればいい与党の「妥協の産物」と批判する。

 主役不在

 自民、立憲民主両党は28、29日の開催で大筋合意している。裏金事件の主要舞台となった安倍派(解散方針)から松野博一前官房長官や高木毅前国対委員長らが出席。二階派(同)の武田良太事務総長も開催を申し出た。
 法令違反が疑われる議員に政治的、道義的責任があるかどうかを審査する政倫審は、ロッキード事件をきっかけに衆参両院に設置された。これまで9回開催されたが、多くが煮え切らないまま幕切れとなっている。
 1998年、石油卸商の資金提供問題を受けた自民党の山崎拓政調会長(当時)への審査は、証言が業者側と食い違ったまま終了。公設秘書の給与流用疑惑を巡る田中真紀子前外相(同)の審査は、説明が不十分とされながら1回で打ち切られた。鳩山由紀夫民主党代表(同)の政治資金問題を巡る政倫審は主役不在のまま決行された。
 政倫審は原則非公開で、本人が了承した場合しかメディアなどに公開されない。衆院事務局によると、鳩山氏が欠席した回を除く過去8回のうち、公開されたのは4回だけ。今回、松野氏らは非公開での審理を希望している。

 踏み台

 高崎経済大の増田正教授(政治学)は「当事者の声を聞く意味で、開催には一定の意味がある」とする一方、証人喚問と違って偽証罪がない点を問題視。「発言に法的責任が伴わず、政治家へのダメージが少ない。疑惑追及をアピールしたい野党と、説明責任を演出したい与党による妥協の産物になっている」と実効性を疑問視する。
 野党の一部からは早くも「政倫審で役割を果たせないなら、証人喚問に移らざるを得ない」(立民の泉健太代表)と、政倫審を“踏み台”と位置付ける声も上がる。
 国会の政倫審に似た制度を採用している地方自治体もある。中には公開を原則とし、第三者である有識者が審査を担うケースも。条例の普及に取り組む「政治倫理・九州ネットワーク」(福岡市)の市川俊司弁護士は「野党議員が審査に加わっても、公平中立な議論は難しい。国会のルールは時代遅れに見える」と手厳しく批判する。

 セレモニー

 制度の不備に加え、野党の姿勢を問題視する意見も上がる。
 東北大大学院の河村和徳准教授(政治学)は、政倫審で安倍派幹部らを追及しても、国民が望む政治資金の透明化に向けた議論は深まらないと指摘。「目的を見据えた対応とは言えず、戦略として拙い。政倫審を開いてもセレモニーで終わるだろう」と冷ややかに語った。