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衆院予算通過 党執行部 統治不全露呈 首相孤立、政権運営に影   


衆院予算通過 党執行部 統治不全露呈 首相孤立、政権運営に影    衆院本会議で2024年度予算案が可決され、一礼する岸田首相(右)ら=2日午後
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 岸田文雄首相が2024年度予算案の衆院通過にこぎ着けた。現職首相による初の衆院政治倫理審査会出席、土曜の審議という異例ずくめの展開の末、やっと手にした成果。だがこの間の攻防で、自民党執行部の統治不全が露呈し、首相は孤立を深めた。予算案審議の舞台が参院に移っても、自民派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡る疑惑は依然引きずり、政権に影を落とす。

距離

 「政倫審出席も、予算の23年度内の成立が重要だとの思いも、関係者に再三伝えている」。首相は2日の衆院予算委員会で、自民執行部と認識を共有しながら国会運営に当たっているとでも言わんばかりに胸を張った。
 果たして本当にそうだろうか。答えは「否」と言わざるを得ない。
 裏金事件を巡り、首相は先月28日に「私が出る」と突如表明した。国対幹部は「すごいインパクト」と好意的だが、そうした評価は一部。官邸筋でさえ「独断」と認める窮余の策に首相が打って出たのは、内閣支持率の低迷で求心力が弱まり、執行部を意のままに動かせないからだとの受け止めが与野党に広がる。
 特に「ポスト岸田」候補の一人とされる茂木敏充幹事長との距離を指摘する声は多い。党務を取り仕切る茂木氏は、政倫審開催に積極的に関与しなかった。安倍派幹部ら政倫審出席者との調整に当たった森山裕総務会長も、首相がこだわった政倫審の「公開」には反対だった。政権は一枚岩でなかったのが実情だ。

苦言
 「首相が決断する前に党を預かる人が役割を果たし、連携を密にすべきだ」。連立を組む公明党の山口那津男代表は29日のBS11番組で、茂木氏を念頭に苦言を呈した。ガバナンス(組織統治)が機能していないと見なされれば、国民の政治不信は深まり、政権にマイナスとの懸念からだ。
 自民幹部も「幹事長が全く働かない。首相が乗り出す方がおかしい」と明かす。
 複数の関係者によると、茂木氏は自らに向く不満を感じ取ったのか、1日にようやく重い腰を上げた。予算案について、3月中の成立が確実となる2日までの衆院通過にこだわらない考えを野党側に伝えたというのだ。

暗闘
 茂木氏の動きと連動するかのように、1日深夜まで続いた与野党の駆け引きの中で「4日の衆院通過案」が浮上した。しかし首相は野党に譲歩するつもりは毛頭なく、すかさず自民執行部の一人に電話。「絶対に駄目だ。譲るな」と指示した。国対幹部は野党と何とか折り合いを付け、2日の衆院通過という「果実」(閣僚経験者)を首相にもたらした。
 とはいえ首相は安穏としていられない。裏金事件に関し、野党は参院でも「徹底的にただす」(立憲民主党幹部)と手ぐすね引く。真相解明へ森喜朗元首相らの参考人招致を要求。4月の衆院3補欠選挙をにらみ、政権にダメージを与え、国民の支持引き付けを狙う。
 首相は2日夜、予算案の衆院通過を受け官邸で記者団の前に立つと、いつもよりゆっくりした口調で「参院審議も丁寧に臨みたい」と語った。自身に働く強い遠心力と自民内の暗闘の影響か、表情には疲れが見て取れた。