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国民不在、身内の論理 自民裏金処分 総裁選にらみ首相奔走 実態解明は置き去りに


国民不在、身内の論理 自民裏金処分 総裁選にらみ首相奔走 実態解明は置き去りに 裏金事件の処分を巡る自民党執行部の関係(似顔 本間康司)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 裏金事件の処分を巡る自民党執行部間の調整はもつれにもつれた。世論が求める実態解明は置き去りにしたまま、9月の総裁選をにらんだ思惑と私怨(しえん)が複雑に交錯。厳正処分と言いながら、岸田文雄首相を対象外とした結論は、身内の論理を優先した国民不在の政治に映る。この間、党内はきしみ、収拾に奔走した首相に遠心力が働く皮肉な事態に発展した。舞台裏を検証した。 (1面に関連)

 3案

 2日午後3時17分、国会3階の自民党幹事長会議室。首相、麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長、森山裕総務会長の4人がそろったところで、処分案が配られた。紙には「A、B、C」の順に書かれた3案が並んでいた。
 焦点は、安倍派幹部7人と二階派の武田良太事務総長の処遇。C案は2022年8月、安倍派で裏金復活について協議した塩谷立、世耕弘成、下村博文、西村康稔の4氏をまとめて離党勧告とする案だった。だが突っ込んだ議論もなく選択肢から外れる。萩生田光一前政調会長らを「選挙での非公認」とするA案も「前例がない」ことを理由に却下された。
 残ったのはB案。塩谷、世耕両氏を離党勧告、下村、西村、高木毅、武田の4氏を党員資格停止とし、萩生田氏は党役職停止とする内容だった。高木、武田両氏は直近で安倍、二階両派の事務総長に就いていた点が考慮された。執行部の一人は「実は麻生氏が推していた」と明かす。

 遺恨試合

 同4時8分、首相が森山氏を伴い次に入った自民党総裁室には小渕優子選対委員長や渡海紀三朗政調会長、関口昌一参院議員会長が待っていた。ここでB案に異論が出る。「二階派と安倍派は悪質性が異なる。武田と高木が同列なのはおかしい」。首相は森山氏を残し、再び麻生、茂木両氏が待つ部屋へ向かった。
 麻生氏は武田氏の党員資格停止にこだわった。事情を知る関係者は「2人は地元福岡で長く対立している。遺恨試合が東京に持ち込まれた」と解説する。
 首相にとって、麻生氏は政権発足以来の後ろ盾。意向は無視できないが「理」にかなっているのはいずれか。判断を託された首相は熟慮の末、4日朝に麻生、森山両氏に「党役職停止1年とします」と仁義を切った。
 一方、執行部で異論が出なかったのは萩生田氏の党役職停止案だ。
 萩生田氏は安倍晋三元首相の最側近だった。安倍派の若手から人望が厚い。厳しい処分で恨みを買えば9月の総裁選でしっぺ返しをくらう―。再選を目指す首相だけでなく、「ポスト岸田」をうかがう茂木氏も思惑が一致した。安倍派中堅は「恩を売っておこうという腹だ」と見透かした。

 伝書バト

 自民は一斉処分でけじめをつけたとして局面転換を狙う。しかし調整のためとはいえ、首相自ら麻生、茂木両氏と、森山、小渕両氏の間を行ったり来たりしたのは異常だ。首相周辺は「まるで伝書バトのように扱われた」と憤慨する。茂木氏が1日、根回しせずに処分対象者を発表したことも執行部の一部から反発を買った。
 ごたつく党内。離党を勧告された塩谷氏は早速「首相も同じような処分を受けることが公平だ」と不満をぶち上げた。
 当の首相。「中途半端な処分をしたら党が終わる」と危機感を募らせていたにもかかわらず、「トップに一番甘い」(立憲民主党の泉健太代表)と批判を浴びる。4日夜、官邸を後にする際、記者団に自身の責任を問われると言い放った。
 「今後、政治改革に全力で取り組まなければならない。それが総裁としての責任だ」