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制度活用へ捜査力必要


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 兵庫県警が捜査した経済事件で司法取引が適用された。警察事件では初めてとみられる。制度導入から6年近く。当初の狙い通り組織犯罪捜査の武器となるかどうかは、今後の検察・警察の捜査力にかかっている。
 組織犯罪の典型とされる特殊詐欺の昨年の被害は441億円。過去4番目に多く、被害減少の見通しは立たない。受け子ら末端の摘発だけで上層部が捕まらず、組織が存続しているためだ。
 警察庁は昨年夏、「匿名・流動型犯罪グループ(匿流)」と規定して摘発強化を進めるが、組織の匿名性が大きな壁となっている。末端は交流サイト(SNS)で集められ、指示は通信アプリなどを通じて出される。
 上層部は実行役らに自身の個人情報が一切漏れることなく、陰に隠れて犯行を主導できる。実行役の摘発から上層部の摘発を目指す従来の突き上げ捜査が組織トップの摘発に結びつかない要因で、捜査関係者は「新たな捜査手法が必要」と指摘する。
 だが、特殊詐欺の実行役らは司法取引の対象にならないとみられる。組織上層部に関わる情報を持っていないからだ。制度を活用するには、上層部に近い人物を探り出す捜査力が必要だ。
 警察は4月から、特殊詐欺を集中捜査する「連合捜査班」(TAIT)を全国に設置し体制を強化。科学捜査も駆使して捜査力を向上できれば、組織犯罪の解明に司法取引が生かされる場面も出てくるはずだ。