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延命狙い戦闘継続 イスラエル首相 ラファ侵攻は米次第


延命狙い戦闘継続 イスラエル首相 ラファ侵攻は米次第 ネタニヤフ首相を取り巻く構図(写真はAP)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 パレスチナ自治区ガザで戦闘が始まってから7日で半年がたった。イスラム組織ハマスの壊滅を目指すイスラエルのネタニヤフ首相は強硬路線を崩さず、ガザ最南部ラファ侵攻を計画する。戦闘継続自体を支持する世論は根強いものの、政治的延命を狙う個人的な動機が透けて見え、国内外で逆風にさらされる。甚大な被害が不可避なラファ侵攻の行方は、同盟国である米国の圧力次第だ。

 最後のとりで

 昨年10月下旬にガザ北部への地上侵攻を開始したイスラエル軍は南部ハンユニスまで作戦の範囲を拡大した。これまでにハマスの拠点3万カ所以上を空爆し、戦闘員約1万2千人を殺害したと誇示する。軍関係者の間では「作戦は成功している」(元軍幹部ヨシ・クーパーバッサー氏)との見方が大勢を占める。
 だがその言葉と裏腹に、侵攻目標に掲げる「人質奪還」と「ハマス幹部の殺害」は進んでいない。軍が作戦で奪還した人質はわずか3人。標的とするガザ地区トップ、シンワール指導者らの発見にも至っていない。ラファはハマス最後のとりでで、人質もいる可能性がある―。ネタニヤフ氏がラファ侵攻に固執するのは、明確な「成果」を必要とするからにほかならない。
 長期政権を築き、百戦錬磨のネタニヤフ氏だが、国内では今年に入って反政権デモが急速に拡大中だ。退陣と、ハマスとの即時交渉妥結を求める声が高まりつつある。
 ネタニヤフ氏の政権運営は、戦闘開始以前から綱渡りだった。自身が汚職裁判を抱えているほか、強引な司法制度改革が国民の反発を招いていた。最近の世論調査では早期総選挙を求める意見が過半数を占め、首相にふさわしい人物としても、政敵ながら戦時内閣に加わるガンツ元国防相に大きく引き離されている。
 戦闘の発端となったハマスの奇襲で、イスラエル側では約1200人が犠牲となった。ネタニヤフ氏の責任を問う声は強く、戦闘が終結すれば辞任は避けられないとの見方が大勢だ。「権力に固執する個人的動機で戦闘を長引かせている」との批判は根強い。

 政敵

 ネタニヤフ氏は11月の米大統領選をにらむ。対米関係がぎくしゃくする中、かつて蜜月関係を築いたトランプ前大統領が返り咲けば、自身が生き残る道が開ける。一方、ガンツ氏は公然と「9月の総選挙」を求めており、政権内の不和はもはや隠しようがない。

 生命線

 ラファにはガザ各地からの避難民ら約150万人が密集している。大規模作戦を行えば、多くの民間人が犠牲になるのは避けられず、国際社会の懸念は深い。イスラエルの後ろ盾となってきたバイデン政権にも打撃だ。
 そんな中、イスラエル軍のガザ攻撃で米国の食料支援団体ワールド・セントラル・キッチンのメンバー7人が死亡した。激怒したバイデン大統領は対イスラエル支援を見直すと警告した。
 米国の軍事支援はイスラエルの生命線だ。レバノンの軍事評論家ヒシャム・ジャベル氏は「ガザの戦闘を終える方法は米国によるイスラエルへの軍事支援の中止だ。米国が決断すれば戦闘は終わる」と指摘する。「米国の支援がなくてもラファに侵攻する」と豪語してきたネタニヤフ氏。ハマスだけでなく、対米関係でも攻防を迫られている。(エルサレム共同=平野雄吾)