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【記者解説】火種残る「別の場所」 うるま陸自訓練場を断念 「配備ありき」ではない考え方を


【記者解説】火種残る「別の場所」 うるま陸自訓練場を断念 「配備ありき」ではない考え方を 東京・市谷の防衛省(資料写真)
この記事を書いた人 Avatar photo 沖田 有吾

 木原稔防衛相はうるま市石川のゴルフ場跡地で計画していた陸上自衛隊訓練場整備について取りやめを表明した。地元への説明もないまま、住宅地や教育施設のすぐ近くに訓練場を造ろうとするずさんで拙速な計画は、地元を中心に保革を超えた大きな反対のうねりを招き、頓挫した形だ。

 政府は、安全保障関連3文書の「防衛力整備計画」で、2027年度までに陸自第15旅団を師団に「格上げ」する方針を決めている。那覇駐屯地の普通科連隊を1個から2個に増強するのに伴い、現在沖縄本島内にある那覇、沖縄、浮原島の3カ所の訓練場では対応が困難だとして、訓練場の新設を計画した。

 しかし、計画は完全に地元住民の視点を欠いていたと言わざるを得ない。予定地を一度でも訪れれば、住宅地や県立石川青少年の家との近さに驚くだろう。周辺住民の生活に大きな影響を与えかねない施設を造るのに、必要な調査がされていたのかすら疑わしい。

 政府は近年、先島諸島などへの自衛隊施設の配備・拡大を続けざまに実施してきた中で「国防」という大義の前に住民生活への影響を軽視する風潮が生じていたのではないか。断念を表明して終わりではなく、一連の手続きのどこに問題があったのか、調査して公表する必要がある。

 南西諸島への自衛隊配備強化の動きが続く中、住民の反対が「断念」という形で実を結んだことで、住民理解を得ない強硬な配備を許さなかったという特筆すべき事例を残したと言える。一方で、政府は沖縄本島内の別の場所で訓練場を整備する方針を明言している。ただでさえ米軍基地に土地を占有されて決して広くない沖縄の中で、住民の生活に影響を与えない場所が果たしてあるのか、疑問は拭えない。防衛省には今回のケースを真の意味で反省材料として「配備ありき」ではない考え方が求められる。

 (沖田有吾)