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核軍縮に踏み込まず 原爆投下当事国に配慮か


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 岸田文雄首相は米連邦議会上下両院合同会議の演説で、国際社会の平和と安定のために日米両国が果たすべき責任に力点を置く。一方で政治目標とする「核兵器のない世界」に関しては、原爆投下の当事国に対し刺激を避ける姿勢が目立つ。核兵器大国の米国で上下両院議員に核軍縮と不使用の重要性を訴える機会を、みすみす逃したとの指摘も出そうだ。
 米国には、原爆使用は太平洋戦争の早期終結に必要だったと正当化する考えが根強くある。被爆地・広島選出の首相が演説で核なき世界を訴えれば、激しい反感を買うと懸念した可能性がある。国賓待遇で招かれた手前、礼を失するとの配慮もあったのだろう。
 首相は10日のバイデン米大統領との会談で、米国が核を含むあらゆる能力を用いて日本を防衛する決意を取り付けた。核兵器を違法化した核兵器禁止条約への参加にも後ろ向きだ。安全保障や現下の国際情勢を踏まえた「現実的な対応」(外務省幹部)との立場だろうが、首相の核廃絶への決意を疑う向きもある。
 ウクライナやガザ情勢を巡っても、米国に行動を促す踏み込んだ発言はほとんどない。米国にとって機微に触れるような課題であっても、重要と判断すれば毅然(きぜん)と直言してこそ、真のパートナーと言える。
 (ワシントン共同=中久木宏司)