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全敗回避へ首相背水 与野党対決の島根 「来ないで」の声も   


全敗回避へ首相背水 与野党対決の島根 「来ないで」の声も    記者団の取材に応じる岸田首相=16日午後、首相官邸
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 衆院3補欠選挙がスタートした。裏金事件が直撃し、内閣支持率20%台の超低空飛行が続く中、自民党は東京、長崎で不戦敗を強いられた。唯一の公認候補を立てた保守王国・島根も落とせば、選挙の顔には不適格だとして「岸田降ろし」に直結する恐れがある。崖っぷちに立たされる岸田文雄首相は全敗回避を目指す。野党は「裏金問題にノー」を前面に掲げ、議席奪取へしのぎを削る。

▽分裂のしこり
 「政治の信頼回復に向けた取り組みを訴えなければならない」。16日夜、官邸。首相は3補選への意気込みを記者団に問われ、そう強調した。21日には応援演説のため島根入りする予定だ。
 自民は保守地盤の島根1区で苦戦している。細田博之前衆院議長と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)側との接点を巡る問題が尾を引く。細田氏が裏金事件で渦中の清和政策研究会(現安倍派)の会長だったこともあり、選対筋は「細田氏の弔い合戦とは言いにくい」と明かす。
 2019年に保守分裂となった県知事選のしこりも残り、丸山達也知事を担いだ県議勢が「寝てしまい動かない」(関係者)事態が生じた。慌てた首相は3月下旬、重鎮県議に東京都内で極秘裏に会い、支援を求めて頭を下げた。しかし「色よい返事は得られなかった」(党執行部)という。
 党本部には「首相に応援に来てほしくない」との声も届く。内閣支持率が低迷し、党勢の陰りを象徴する存在となった首相。自民幹部は「正直厳しい」と顔を曇らせる。

▽勝ち馬探し
 補選の勝敗は政権運営の分水嶺(れい)となる。自民が21年4月、衆院北海道2区と参院長野選挙区の両補選、参院広島選挙区再選挙で全敗。菅義偉首相(当時)が求心力を一気に喪失し、9月の総裁選不出馬に追い込まれたのは記憶に新しい。
 当の首相は「踏ん張りどころ」と説く。今年9月の総裁再選を狙う首相の側近は「島根で1勝さえすれば政権浮揚の余地を残せる」と望みを託す。

▽ジレンマ
 対する野党。島根1区を除けば、東京15区と長崎3区で「与党不在」の異例の選挙となった。立憲民主党や日本維新の会など野党候補が競合する中、政治とカネを争点化し、批判票の受け皿になろうとの戦略を描く。
 「裏金問題にノーの答えを出す選挙だ」。立民の泉健太代表は16日、東京15区の街頭に立ち、有権者に呼びかけた。
 立民が3勝できれば、後半国会で政権追及の追い風となる。次期衆院選で「野党候補の一本化に弾みがつく」(小沢一郎衆院議員)との見方も党内にはある。
 ただ劣勢の岸田首相の下で衆院解散・総選挙を迎えたいのも本音。退陣に追い込めば、自民の顔が代わってしまい、一転して野党に不利となるかもしれない。ジレンマを抱える立民幹部は冗談か本気か、こう予測した。「自民の1勝2敗なら、首相も少し元気が出て解散してくれるかもしれないな」