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3月訪日客 初の300万人超 大都市に集中、格差拡大 「観光公害」も再び


3月訪日客 初の300万人超 大都市に集中、格差拡大 「観光公害」も再び 外国人観光客らでにぎわう京都・清水寺周辺=17日午後
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 月間訪日客数が初めて300万人の大台に乗った。2024年の通年でも過去最多を更新する勢いだが、依然として客足は都市部に偏る。地方での消費は伸び悩み、格差は歴然。有名観光地は人出が過熱し、住民生活をおびやかす「観光公害」も顕在化している。政府が課題と言い続けてきた「訪日客の地方分散」の結果が求められている。

▽ブーム
 4月、東京・千鳥ケ淵。皇居のお堀で桜が見頃を迎え、にぎわう中に訪日客らの姿が目立った。米国から初来日した男性(32)は「昨年は欧州を旅していた。日本は物価が安いしラーメンやすしがおいしい。富士山や大阪も楽しみ」と話した。
 国宝・姫路城(兵庫県)では23年度、外国人来場者が過去最多を記録。今年3月は来場者の35%が外国人だった。管理事務所は「昨年5月のコロナ5類移行に伴い急増した」。
 訪日ブーム最大の要因は円相場だ。19年は1ドル110円前後だったが、23年6月ごろから、おおむね140~150円台で推移。訪日客は同月、200万人台を回復し、ほぼ右肩上がりで増えてきた。
 日本食やアニメなども誘因。日本政府が入国を制限していたコロナ禍でも交流サイト(SNS)などで関連情報を集めていた外国人が多く、ブームの素地がつくられたと指摘される。

▽1300倍
 日本と海外を結ぶ国際航空路線も、コロナ禍の激減を経て旅客便数ベースで19年冬ダイヤ比9割超まで戻った。中国路線や欧州路線が回復途上で、今後増便が見込まれることから「訪日客はさらに増えていく」(観光庁幹部)との見方が強い。
 ただし恩恵が行き渡っているとは言い難い。観光庁が23年4~12月分の訪日客による飲食や宿泊などの消費額を分析したところ、東京、大阪、京都など6都道府県は1千億円を超えた一方、23県は100億円未満。最多の東京は1兆5761億円、最少は福井の12億円で、その差は1300倍超に上る。
 巻き返しを狙う福井県は今月「インバウンド推進室」を新設した。3月の北陸新幹線延伸開業に合わせ、東尋坊や永平寺などを組み込んだ周遊バスツアーなどで移動手段を充実させた。県担当者は「キャッシュレス化も進め、客の長期滞在につなげたい」と意気込む。

▽実効性
 一部の観光地は別の悩みに直面する。京都市・祇園地区では私道に無断侵入し舞妓(まいこ)を撮影する訪日客が後を絶たない。コロナ禍を経て問題が再燃し、住民らは日本語と英語で立ち入り禁止を警告する看板設置を決めた。
 住民らでつくる協議会の太田磯一幹事は「家の扉を開けたら騒音が聞こえたとの苦情もある。効果が確認できれば看板を増やしたい」と話す。
 17日、首相官邸。岸田文雄首相は観光立国推進閣僚会議で、過去最高水準の訪日客数や消費額をアピール。観光公害対策も「強力に推進」と言及した。折しも政権の命運を左右する衆院3補欠選挙が告示された翌日で、政府関係者は「有権者を意識したんでしょうかね」とつぶやいた。
 だが、配布資料には目立った新規施策の打ち出しはなかった。
 世界的な旅行予約サイト「ブッキング・ドットコム・ジャパン」の高木浩子西日本統括部長は「国際線の地方路線や中国人客が本格的に戻れば、観光地は一層混雑しかねない」。早急に実効性のある対策が必要だと警鐘を鳴らした。