愛媛、高知両県で17日深夜、最大震度6弱を記録した地震は南海トラフ巨大地震の想定震源域で起きた。現在の震度階級になって四国で震度6弱以上は初めてで、多くの住民が巨大地震を想起した。南海トラフ地震について気象庁は「発生の可能性が急激に高まったとは考えにくい」との見解だが、識者や地元からは備えの契機とし、防災対策強化の必要性を指摘する声が出ている。 (1面に関連)
経験ない揺れ
「自宅で寝ていたが、飛び起きた。南海トラフ巨大地震が頭をよぎり、怖かった」。震度5弱だった愛媛県八幡浜市。同市総務課の男性職員は「今まで経験したことがない長い揺れ」に驚きながら出勤した。水道管が破裂、市民の「水があふれている」といった問い合わせ対応に追われた。
震度6弱を記録した高知県宿毛市にある特別養護老人ホーム「千寿園」の防災担当、石田篤さん(48)は、自宅で強い揺れを感じた。「南海トラフか」。心配したが、違うと分かり、ほっとして施設に急いだ。
「南海トラフ地震との関係で分かっていることは」。地震から約2時間経過した18日未明、東京・虎ノ門の気象庁で開かれた記者会見。報道陣から南海トラフ地震に関する質問が相次いだ。
メカニズム違い
地震の規模を示すマグニチュード(M)が当初の推定6・4から6・6に更新されたことも、記者の関心を高めた。
想定震源域でM6・8以上の地震が起きると、気象庁が「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」を発表、有識者による評価検討会を開き、巨大地震との関連を調べることになっているからだ。
原田智史・地震津波監視課長は(1)Mが調査開始の基準を下回っている(2)南海トラフ地震とメカニズムが異なる―などの理由から、巨大地震の可能性は高まっていないと重ねて説明した。
南海トラフ地震は、沈み込むフィリピン海プレートに引きずられた陸のプレートが元に戻ろうと跳ね上がることにより、プレート境界で起きる。これに対し、今回はプレート境界よりも深い、フィリピン海プレートの内部で発生した。
点検
田所敬一・名古屋大准教授(地震学)は「横方向に引っ張られる力がかかり、地震が起こりやすい場所で起きた。同様の地震が今後増えるのでは」とみる。
「豊後水道から九州の辺りでは、今回のようなメカニズムの地震がよく起きる」と話すのは京都大防災研究所の山下裕亮助教(観測地震学)。2022年1月に日向灘で起きたM6・6の地震も同様のメカニズムという。「南海トラフ地震がすぐに起こりやすくなっているわけではない」と強調した。
一方で、今回の震源は深さ39キロでプレート境界に比較的近い。山下氏は「断層破壊がプレート境界に達している可能性は否定できない」とも述べ、今後の地震の分布など、データを詳しく調べる必要があるとした。
河田恵昭・関西大特別任命教授(防災・減災学)は「今回を契機に、一人一人が備えを強化すべきだ。さらに大きな地震が来るかもしれない、南海トラフ地震はいつ起きてもおかしくないと考えてほしい」と訴える。
宿毛市の石田さんも「入所する高齢者が迅速に避難できるのか、防災計画をもう一度、点検したい」と話している。