創価学会の原田稔会長が5月10日午前(現地時間)、バチカン市国のアポストリコ宮殿でローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇と会見した。〈会見では冒頭、会長が、今回の機会に謝意を表すると、教皇は「お待ちしていました」と笑みをたたえつつ握手。/会長が「混迷する現代にあって、平和を希求する宗教として、差異を乗り越え、人間愛に基づく行動を共にすることを願っています」と述べると、教皇は「大変に素晴らしいことです」と応じた。/次いで会長が、池田先生への弔意に対しての池田家からの御礼を伝えると、丁重な返礼があった〉(12日「聖教新聞」)。
会見の内容がとても興味深い。〈会長は「人類の幸福と世界平和のために、今後も歩みを共にしたい」と述べ、教皇は、現今の社会情勢を憂いつつ、「戦争は敗北のしるしであり、絶対に消さなくてはいけません」と強調した。/会長は、創価学会は池田先生のリーダーシップのもと、半世紀以上にわたり核兵器廃絶に取り組んでおり、SGIとICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)がパートナー関係にあること、また先生が23年に核兵器の先制不使用について提言を発表したことを紹介。教皇は、強い言葉で核兵器を批判するとともに、これらの学会の取り組みについて「素晴らしい。私も同意します」と語った〉(同上)。核廃絶について2人の宗教指導者の間で意見の一致を見たことが重要だ。また沖縄がいかなる状況においても核戦争に巻き込まれない状況を作るためにも、創価学会とカトリック教会は大きな役割を果たすことができる。
ロシア・ウクライナ戦争に関しても創価学会と教皇の立場は近い。創価学会の池田大作第三代会長(1928年1月2日~2023年11月15日)が、23年1月11日に「ウクライナ危機と核問題に関する緊急提言『平和の回復へ歴史創造力の結集を』」を発表し、〈私は、国連が今一度、仲介する形で、ロシアとウクライナをはじめ主要な関係国による外務大臣会合を早急に開催し、停戦の合意を図ることを強く呼びかけたい。その上で、関係国を交えた首脳会合を行い、平和の回復に向けた本格的な協議を進めるべきではないでしょうか〉と強調した。そして、本年3月9日の報道でフランシスコ教皇が2月に収録したテレビインタビューで〈最も強い者は、状況を見て、国民のことを考え、白旗を揚げる勇気をもって、交渉する者だ〉と述べたことが明らかになった。
今回の原田会長とフランシスコ教皇の会談でも価値観について重要な一致が得られた。〈会長が、小説『人間革命』の冒頭の一節「戦争ほど、残酷なものはない。戦争ほど、悲惨なものはない」を通し、学会はこの精神を根本として平和運動を展開していると語ると、教皇は「大切なことです。賛同します。私も同じ意見です」と述べた。/平和の未来へ協働する精神にあふれた友好の語らいは、約30分に及んだ〉(同上)。今後、ロシア・ウクライナ戦争の終結に向けて創価学会とバチカンが大きな役割を担うと筆者は期待している。
ウクライナにおける戦争が長引けば長引くほど、多くの命が失われる。命を救うという当たり前のことが国家エゴのために実現できなくなっている。このような状況で創価学会やカトリック教会のような世界宗教は、ロシア・ウクライナ戦争に現実的働きかけをすることができる。今回の原田・フランシスコ会談は、現実の国際政治にも重要な影響を与える出来事と筆者は見ている。
(作家、元外務省主任分析官)