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米兵事件 二つの問題 構造的差別への無自覚さ<佐藤優のウチナー評論>


米兵事件 二つの問題 構造的差別への無自覚さ<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 嘉手納基地に勤務する米空軍兵が去年12月24日に県内在住の16歳未満の少女に性的暴行をしたとして起訴(3月27日付)された事件について、今月25日に報道されるまで中央政府から県への情報提供がなかった事案については二つの問題がある。

 第1は中央政府の対応だ。その背景には沖縄に対する構造的差別がある。

 1952年にサンフランシスコ平和条約が発効し、日本が独立を回復した際に、沖縄は日本国憲法が施行されない「外部」として、切り捨てられた。人権を保障する法的基盤が無い状態に置かれ、米兵による沖縄人に対する犯罪に対して正当な処罰がされない状態が1972年の沖縄(の施政権)返還まで続いた。沖縄人にとって本土復帰運動は人権回復闘争でもあった。

 ちなみに1952年時点の米軍専用施設の比率は沖縄が10%、本土が90%だった。現在は、沖縄が70%、本土が30%だ。日本の陸地面積の0・6%を占めるに過ぎない沖縄県に在日米軍専用施設の70%が所在している状態は不平等だ。不平等な状態が是正される気配はない。沖縄県民も日本国民として平等の地位を持っているはずだ。しかし、これだけ過重な基地負担を日本の政治エリートも一般国民も放置している。ということは、沖縄に対する差別的扱いはそのままでいいと、日本人が意図的もしくは無意識のうちに考えているからだ。これは日本による沖縄に対する構造的差別に他ならない。

 〈玉城デニー知事は25日、県庁で記者団の取材に対して「怒り心頭だ」と強い憤りを示した〉(25日、本紙電子版)。筆者も怒り心頭に発している。ただし、この怒りがなぜ生じるのかを東京の政治エリート(国会議員、官僚)には理解できない。それは構造的沖縄差別の当事者であるという自覚が東京の政治エリートに欠けるからだ。〈(玉城知事は)米軍基地があるが故の事件事故が繰り返されることに「過重な基地負担は騒音や環境汚染の実害など、日常茶飯事で(県民にとって)受忍限度を超えていると何度も声を上げている。それに加えて未成年の少女の身に危険が及ぶようなことが起こってしまうこと自体が問題だ。本当に強く抗議しなくてはならない」と指摘した〉(同上)。玉城知事の想いが東京の政治エリートに伝わっていないというのが現状だ。

 一般論として、沖縄人、日本人、アメリカ人を問わず、人間の集団の中には犯罪性行を持つ人がいる。犯罪性行を持つ人の中で、実際に犯罪に着手する人もいる。沖縄で米兵による犯罪が多いのは、沖縄に70%の米軍専用基地が所在するという客観的事実に基づく結果だ。構造化された差別に対する日本の中央政府の鈍感さに沖縄全体が怒っているのだ。沖縄の在日米軍施設の過重負担、1952~72年、日本国憲法で定められた人権保障の埒外(らちがい)に置かれ沖縄人が苦しめられてきたことなどを外務官僚が認識していれば、この種の事案については沖縄県と緊密な連絡を取ったはずだ。沖縄に関する無理解と無関心が外務省の今回の対応の背景にある。

 第2は、沖縄県警の対応だ。沖縄県警察は、沖縄県が設置した警察組織であり、沖縄県内を管轄区域とし、略称が沖縄県警だ。沖縄県公安委員会の管理を受け、給与支払者は沖縄県知事だ。なぜ県警が県の最高責任者で自分たちの給与を支払っている玉城知事に米兵による刑事事件が発生し、逮捕された事実を伝えなかったのだろうか。理解に苦しむ。琉球新報が調査報道で真相を明らかにすることを期待する。

(作家、元外務省主任分析官)