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円安是正、政府に押され 日銀追加利上げ 慎重論封印、批判回避   


円安是正、政府に押され 日銀追加利上げ 慎重論封印、批判回避    日銀追加利上げ決定の構図
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 日銀が追加利上げを決めた。歴史的な円安を是正し、行き過ぎた物価高に歯止めをかけたい政府、与党に背中を強く押され、個人消費の弱さを根拠とする内部の慎重論を封印。「煮え切らない日銀」との批判的なイメージが広まるのを避けた。 (1面に関連)

景気に自信
 「経済・物価データはオントラック(想定通り)だ」。日銀の植田和男総裁は金融政策決定会合後の記者会見で、景気のかじ取りに自信を見せた。日銀がホームページで0・25%程度への利上げ決定を公表したのは31日午後1時ごろ。その前後にアクセスが集中し、つながりにくくなった。国内外の投資家の関心の高さをうかがわせた。
 日銀が利上げの理由に挙げたのは、消費者物価上昇率が、目標の2%を27カ月連続で上回っていることだ。日銀は2024年度の上昇率を2・5%と見込んだが、利上げ効果などが徐々に表れ、25年度は2・1%、26年度は1・9%と、2%近辺に収まると予測した。
 企業が原材料費や人件費の上昇分を価格に転嫁する動きが広がり、春闘で大幅な賃上げが実現したことも補強材料になった。利上げが日本経済に及ぼす影響を問われた植田氏は即座に「強いブレーキがかかるとは考えていない」と答えた。

家計厳しく
 とはいえ、急速に進んだ物価高に賃上げのペースは追い付かず、家計は厳しい状況が続く。景気の鍵を握り、実質国内総生産(GDP)の半分程度を占める個人消費は24年1~3月期まで4四半期連続のマイナスだ。
 日銀内には、所得税と住民税の定額減税や賃上げで「消費者心理の悪化は底を打った」との楽観論の一方、「消費動向を慎重に点検すべきだ」との意見が出ていた。利上げに伴って、住宅ローン契約者の7割が選択するとされる変動タイプの金利は上昇する公算が大きく、個人消費の低迷は一段と長引く恐れがある。
 さらに、日銀が国債購入額を減らす「量的引き締め」と同時に利上げに踏み切れば「景気に想定外の影響を与えかねない」(債券アナリスト)との見方も、日銀が判断に迷う要因になっていた。

メッセージ
 こうした中、悩める日銀に助け舟を出したのが政府、与党だった。岸田文雄首相は7月19日、経団連の夏季フォーラムで講演し「金融政策の正常化が経済ステージの移行を後押しする」と発言。22日には自民党の茂木敏充幹事長が講演で「金融政策を正常化する方針を明確に打ち出すことが必要だ」と踏み込んだ。
 急激な円安を食い止めようと、円買いドル売りの為替市場介入を連発した政府からは「できる限りのことはした。次は日銀の番だ」(経済官庁幹部)との声も聞かれた。
 日銀関係者は「政治が容認している利上げを見送って、円安進行の要因をつくる判断は難しいだろう」と話した。日銀が利上げを決め、米国との金利差を縮めることで、円が買われるようにしたい―。政府、与党からのメッセージを無視できなくなっていた。