鈴木宗男参院議員(無所属)が、7月28~31日、モスクワを訪問し、プーチン大統領側近のコサチョフ連邦院(上院)副議長ら要人と会談した。議員外交は、政府とは異なる立場で日本の国益を推進することだ。2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻後、日ロ政府間の高いレベルでの交流は途絶えている。国会議員でも鈴木氏以外にロシアを訪れた人はいない。鈴木氏というチャンネルが存在しなくなると、日ロ外交はマスメディアや会見を通じて行うという不正常な状態になる。こうなると誤解から日ロ間に深刻なトラブルが生じかねない。
しかし、日本のマスメディアは議員外交の意味を理解できていないようだ。特にひどいのが「朝日新聞」だ。〈ロシアを訪問中の鈴木宗男参院議員が(7月)29日、モスクワで日本の報道陣の取材に応じた。「領土問題の解決、平和条約の締結が日本の一番の国益だ」と訪ロの理由を説明し、ウクライナ侵攻をめぐり米欧とともにロシアと対立する日本政府の姿勢を批判した。際立ったロシア寄りの姿勢を示す鈴木氏は昨年10月にもロシアを訪問して外務次官らと会談していた〉(7月30日「朝日新聞デジタル」)。この記事を匿名で書いた記者は、〈際立ったロシア寄りの姿勢を示す鈴木氏〉というレッテルを貼っている。
しかし、鈴木氏は「領土問題の解決、平和条約の締結が日本の一番の国益だ」と述べている。これは日本政府の方針そのものだ。矛盾した内容の記事を書いていることをこの記者は自覚していない。ロシア・ウクライナ戦争に関して鈴木氏は、この戦争が勃発した直後から、一つでも多くの命を救うために即時停戦を主張している。対して、ロシアは、停戦の条件は整っていないとしている。ロシア・ウクライナ戦争に関しても、北方領土問題に関しても鈴木氏はロシアと対立する立場に立っている。
にもかかわらず、ロシアは鈴木氏のモスクワ訪問を肯定的に評価している。ロシア国営タス通信は、6日、こう報じた。〈(ニコライ・ノズドレフ駐日ロシア大使は)「岸田文雄政権の破壊的な政策が背景にあるにもかかわらず、鈴木宗男氏の毅然(きぜん)とした姿勢、自国の利益を守りロシアとの関係を発展させようとする一貫した努力に対して尊敬の念を抱かざるを得ない」と述べた。大使は、鈴木議員の最近のロシア訪問を肯定的に評価し、「日本側が責を負わねばならない二国間の政治・議会間対話が凍結されている現状において、このような訪問は二国間のコミュニケーションを維持するための数少ない方法の一つである」と強調した。「昨年10月のロシアへの訪問が日本国内で大きな反響を呼んだにもかかわらず、鈴木氏は積極的な立場を堅持し、今年もロシアを訪問した」と大使は付け加えた〉(6日、「タス通信」、ロシア語より筆者訳)。
鈴木氏も筆者もロシアによるウクライナ侵攻は、いかなる理由があるにせよ間違っていると考えている。しかし、日本とロシアの政府間関係が緊張している状況で、対話を維持することは、日ロ間での戦争を避けるために死活的に重要だ。鈴木氏が平和を維持し、戦争を避けるために政治的リスクを負ってロシアを訪問したことの意味を、日本政府よりもロシア政府の方がよく理解している現状を筆者はとても残念に思う。
沖縄選出の国会議員に、日本と中国の間で武力戦争が起きることを避けるため中国に対する積極的な議員外交を展開することを期待する。
(作家、元外務省主任分析官)