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「脱PFAS」民間事業拡大 水質管理強化検討 健康影響、高まる懸念受け 政府内、一律規制に慎重意見根強く


「脱PFAS」民間事業拡大 水質管理強化検討 健康影響、高まる懸念受け 政府内、一律規制に慎重意見根強く
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信

 発がん性が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)を巡り、消費者の懸念の高まりや海外で進む規制強化を受け、民間にも「脱PFAS」事業への参入が広がりつつある。一方、健康影響に関する知見が不足する中、幅広い用途で使われてきたPFASに一律で規制をかけることに政府内で慎重意見も根強い。

急増

 「顧客の関心は確実に高まっている」。浄水器の販売やメンテナンスを手がけるメーカーの担当者は話す。PFASの除去性能などに関する問い合わせが最近急増しているという。浄水器メーカー各社が加盟する浄水器協会の青木一男事務局長によると、政府が水質の暫定目標値を設けるなどした数年前を境に問い合わせが増えたといい「(消費者が)一番気にしているのは健康リスクだ」と指摘した。

 国内で製造されたミネラルウオーターや水道水源から暫定目標値を超える数値が検出され、消費者の不安は拡大。環境省は5月、水道から出る水の汚染実態を把握するため、規模の大きい水道事業に加え、簡易水道などの小規模事業者にも対象を広げた全国調査に乗り出した。年内にも結果を公表したい考えだ。

強化

 日本に先行して規制強化を進めているのが欧米だ。米国では、食品医薬品局(FDA)がメーカーにPFASの使用を徐々に減らすよう要請。2月には食品包装に関し「PFASを含む耐油剤は米国ではもう売られていない」と公表した。欧州では幅広い種類のPFASの製造や使用を制限する規制案が議論されている。

 国内でも民間の動きが活発になりつつある。水処理機器メーカーのクリタック(東京都)は昨年12月、PFASに対応した家庭用浄水器の販売をオンライン限定で開始。需要が拡大したため、店頭販売も始めると今月発表した。

 熱や油に強い性質からPFASはファストフードなどの食品包装にも使われており、製紙大手王子ホールディングス傘下の王子エフテックス(東京都)は昨秋、PFASを含まない食品包装「オハジキ」を発売。担当者は「国内でもPFASフリー製品への切り替えの検討は始まっている」と話す。

「データ不足」

 一方、日本ではPFASへの規制に慎重意見も根強い。政府関係者の一人は、現状では健康影響を評価するためのデータが不足していると指摘。「PFASは幅広い用途で不可欠な素材として利用されている」とし、一律ではなく多数あるPFASの物質ごとに科学的な評価をして規制を検討していくべきだと強調する。

 健康影響を巡る欧米との立場の違いも鮮明だ。欧州は因果関係が十分に証明されていなくても対策を講じる「予防原則」の立場。米国も安全な摂取量は存在しないとし、今の技術で検出できる下限値を基準とするなど規制を強化する。

 日本の内閣府食品安全委員会は今年6月、海外論文などを独自分析した結果、出生時の体重低下やワクチン接種後の抗体低下などとの関連は「否定できない」としたものの、証拠は不十分と結論付けた。発がん性についても証拠は限られると評価した。評価に当たった専門家は、科学的な議論の結果と強調しつつも「データ不足の中で評価せざるを得なかった」と漏らした。

(共同通信)