10月27日に投開票が行われた衆議院議員選挙では、与党の自民党と公明党が大敗した。自公は公示前勢力(288議席)を大幅に減らし、過半数(233議席)を割り込む215議席になった。自民は、256議席から191議席、公明は32議席から24議席へと大幅に減少した。自公の過半数割れは、民主党政権が誕生した2009年衆院選以来の出来事だ。
自民党派閥の裏金問題に関与した46人のうち28人が落選し、18人が当選した。立憲民主党は、公示前勢力(98議席)から大幅に増やして148議席を獲得した。大躍進したのが国民民主党だ。公示前(7議席)の4倍、28議席を獲得した。れいわ新選組も公示前の3議席から3倍増の9議席を獲得した。参政党は1議席から3議席に、日本保守党は3議席を獲得した。社会民主党は公示前の1議席を維持した。日本維新の会は公示前の43議席から38議席に、日本共産党は10議席から8議席に減少した。無所属は野党系と与党系がそれぞれ6議席を獲得した。
今回の選挙で与党が敗北した原因は明白だ。裏金問題をはじめとする政治腐敗に対する有権者の怒りだ。石破茂首相が「選挙の顔」として選ばれたが、国民の信任は得られなかったと評価する新聞もあるが、筆者の見方は異なる。石破首相は、まだ何もしていない。有権者は石破首相に対してではなく、自民党に対する評価をした。石破氏以外の人が自民党総裁になっていた場合、裏金議員の一部を非公認にし、その他も比例重複を認めないという決断はしなかったと思う。石破氏の手法でしか自民党の腐敗体質を除去することはできなかった。「政治とカネ」の問題に対する石破氏の路線は正しいと筆者は考える。
今回の最終局面で、有権者の判断に強い影響を与えたのが10月23日に日本共産党機関紙「しんぶん赤旗」が、自民党本部が非公認候補が代表をつとめる支部に活動費を送った事実を報じたことだ。これを他の新聞、テレビなどが後追いした。この報道がなければ自公が過半数を獲得したと見る記者や政治評論家は多い。筆者はこの報道があってよかったと考える。石破氏自身が自民党の「常識」から抜け切れていなかったことに気付く契機になったからだ。石破氏が信じるプロテスタントのキリスト教では、悔い改めを重視する。反省を今後の行動で示してほしい。
今回の総選挙は、当初から与党の敗北が決まっていた。自民党の負け幅がこの程度でとどまったのは、公明党が頑張ったからだ。公明党は裏金に全く関与していない。この問題では連立与党とは思えないほどの厳しさで自民党を厳しく追及していた。公明党にとって裏金問題は「もらい事故」のようなものだ。しかし、公明党員とその支持母体である創価学会員は、自党の候補者だけでなく、自民党の候補者を真摯(しんし)に応援した。宿命転換、すなわち間違いを犯した人でも真摯に反省し、行動すれば、生まれ変わることができるという価値観があるので、このような不利な選挙でも最後まで頑張ったのだ。友党である自民党が引き起こした難事であっても、それを試練として受け止め、その超克に努力するという行動は信心が無くてはできない。
日本の国内政治はかなり流動化している。野党では、口先だけかもしれないが日米地位協定改定を主張している政党もある。この機会に沖縄が知恵を働かせて、石破首相の心を日米地位協定改定に向けて動かす努力が必要だ。県が周到な戦略を練って、玉城・石破会談の準備をすることを提案する。
(作家、元外務省主任分析官)