5日投開票の米大統領選で、民主党のハリス副大統領はトランプ政権という「過去には戻らない」を旗印に、自由や権利が守られる未来へ前進すると誓った。「米国を再び偉大に」と掲げた共和党のトランプ前大統領は在任中のような繁栄を再現すると主張した。両候補が描くビジョンは対比が際立つ。どちらが勝利しても融和は見込めず社会の分断が続きそうだ。
多様性
移民2世で中間層出身のハリス氏は、米社会の多様性を象徴する。黒人女性初のカリフォルニア州司法長官、女性初の副大統領を務めたことを踏まえ「未来のために闘う」「ページをめくる」と若者や非白人が目立つ集会で繰り返した。
最低賃金引き上げや住宅購入支援、高齢者介護の負担軽減―。公約には低中所得層を重視する政策が並んだ。人工妊娠中絶の権利擁護や銃暴力対策、性的少数者の権利向上を約束し「基本的な自由」が懸かった重大な選挙だと位置付けた。
ウクライナ侵攻や中東情勢で難局が続く外交面では、同盟・友好国を束ねる米国の指導力が欠かせないと主張した。
2021年の議会襲撃など4事件で起訴され、独裁への興味を強めているとも指摘されるトランプ氏が復権すれば、米国の民主主義は破綻するとして「暗い過去」との決別を前面に打ち出した。
成功者
富裕層育ちで、親から継いだ不動産業で名を成したトランプ氏は「成功者」としての高い知名度や、伝統的な政治スタイルと一線を画すイメージが武器だ。
集会は白人が大半で、生活苦や社会構造の変化に憤りを募らせる岩盤支持層の姿が印象的だ。「移民が仕事を奪う」「過激なマルクス主義者が経済を破壊した」。テレビ番組司会者として培った弁舌を駆使。虚偽も交えて不安をあおり、怒気を吐いてハリス氏をののしる演説は熱狂に沸いた。
バイデン民主党政権下で物価高が急速に進んだと非難。大幅な減税や関税強化を公約の柱に掲げ、米企業が潤い雇用創出にもつながると強調した。中南米からの不法移民の急増を問題視し、強制送還して秩序を回復すると訴えた。
中絶や性的少数者の権利拡大に慎重で、国際協調には冷淡な態度だ。社会のリベラル化を懸念するキリスト教福音派や、グローバル化に取り残されたラストベルト(さびた工業地帯)の労働者を取り込んだ。
両候補の主張を前に、有権者の見方も真っ二つに割れている。AP通信の世論調査によると、共和党支持者、民主党支持者ともに、相手候補が勝利すれば米国の民主主義が弱くなると回答した人が約9割に上った。APは「米史上これほど分断された選挙はほとんどない」と指摘した。 (ワシントン共同=新冨哲男)