日本政府は、米大統領選で共和党のトランプ前大統領が勝利を確実にしたのを受け、石破茂首相との会談を早期に実現し、関係構築を急ぎたい考えだ。同盟国への厳しい姿勢や予測不能な言動で知られるため、首相が意欲を示す日米地位協定改定に向けた議論は当面、封印せざるを得ない。日本がバイデン政権と連携して築いた国際協調路線にも暗雲が漂う。 (1面に関連)
「トランプ氏の勝利に心からお祝い申し上げる。今後、接点を早急に持つべく努力したい」。6日、首相はトランプ氏の勝利宣言を受け官邸で記者団に、就任前の電話会談や対面会談の実現に意欲を示した。
首相はトランプ氏と面識がない。良好な同盟関係を保つため、できるだけ早く会談を設定したい意向だ。2016年にトランプ氏が初当選した際、当時の安倍晋三首相が米ニューヨークのトランプタワーを訪問。当選後に初めて会談した外国首脳となり、蜜月関係を築いた成功体験の再現を目指す。外務省筋は「トランプ氏が今回は日本からすぐ会いに来ないのかと感じれば、日米関係に悪影響を及ぼしかねない」と危ぶむ。石破首相が今月中旬に首脳会議のためペルーとブラジルを訪れた後、米国に立ち寄り会談すべきだとの声は多い。
苦い記憶
トランプ氏は前回の在任時、同盟国への圧力をためらわなかった。在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)を巡り、大統領補佐官から当時の水準の4倍相当に引き上げる案を提示した。
交渉はバイデン政権に引き継がれ、26年度までは微増で決着したものの、日本側には苦い記憶だ。トランプ氏の就任後には27年度以降の負担を巡る交渉が待ち受ける。
政府関係者は「トランプ氏がどんな要求をしてくるか分からない以上、こちらから新しい議論を持ち出さない方が良い」と声を潜める。念頭にあるのは、首相が持論とする日米地位協定改定や、アジア版NATO(北大西洋条約機構)構想だ。
在日米軍に法的な特権を認めた地位協定の改定は、米軍の行動の制約につながる。交渉入りした場合、代わりに大幅な財政負担や、自衛隊の役割拡大を求められる恐れが強い。首相を支える岩屋毅外相も「慎重に現状分析し、米側と意見交換したい」と控えめだ。トランプ氏はNATOに批判的で、アジア版NATO構想も同一視される可能性がある。
多国間協力
「米国第一」を掲げ2国間のディール(取引)を好むトランプ氏が返り咲けば、バイデン政権下で進んだ日米韓、日米豪印などの多国間協力が揺らぐ事態も予想される。
その場合、日米同盟を基軸に、同志国や友好国を増やして中国や北朝鮮、ロシアに向き合うとする日本外交への影響は避けられない。
外務省幹部はこう指摘する。「トランプ氏に日米同盟や多国間連携の重要性を繰り返し説明し、理解を得る必要がある」