【島人の目】デモとその周辺


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 春、フランス全土に吹き荒れたデモは、ついにCPE(初採用契約)を撤回に追いこんだ。
 26歳未満の新社員を2年の間に理由なく解雇できるというとんでもない内容で、高校生、大学生ら未来の労働者、組合、左派政党の怒りはすさまじかった。
 フランス人はよくデモをする国民である。「おフランス」とその気取ったナルシシズムがやゆされる一方で、今回の自分たちの生活、将来に密着した内容からイラク戦争反対の世界平和まで、実に汗くさく、泥くさいシュプレヒコールがパリのまちにこだまする。
 数年前に私は1度だけ、学生らのデモに出くわしたことがあった。友達との待ち合わせ場所の近くで、遠くからスローガンの連呼が聞こえ、段々と大音響になり、たくさんの若者たちが歩いてきた。そうなると、以前、会社の組合の“動員”で「基地反対!」と叫んだ思い出や、はたまた組合の闘士が何人かいた家系の血が騒ぎ、一緒に参加したい気になったが、とんでもない、ほんとうに血を見そうな気配だった。
 何しろ、あちこちから石が飛ぶのである。機動隊に石を投げて喜んでいるデモ参加者らもいるのだ。デモ隊の周りの人たちは危ない。私は偶然居合わせたおばあさんを事が収まるまで、かくまい、守るはめになった。息を潜め、周りの動静を探る。戦場にいる気分だ。「怒り」を表明する行動には危険も伴う。
(又吉喜美枝・フランス通信員)