【交差点】かぎ十字


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 女性用商品が大部分を占める弊社のラインアップに男性用商品を増やしたいために、新しいデザインの一つとしてかぎ十字をデザインしたストラップとネックレスを商品に加えた。かぎ十字はナチスドイツのシンボルマークで、いい意味でないのは十分承知していたのだが、デザイナーの提案で軽い気持ちで商品化した。
 ところが、店頭に出してみるとヨーロッパ人やユダヤ系の人々から驚くほどのおしかりを受け始めた。店員から、そのことを聞かされていたのだが、数日前、自分で接客していると年配の白人男性から「これが何を意味するのか分かっているのか、なぜ、こういうものを販売しているのか、このマークを販売することは違法でもあるのだぞ!」と大変なおしかりを受けた。
 大学院で国際関係論も学んだ私が恥ずかしい限りだが、映画や本で知っていたつもりでも、ヨーロッパや世界には、われわれ、アジア人には感じにくい、歴史的背景や受け継がれている感情があり、その気持ちは私たちが想像するよりも、もっと深いことを認識し、歴史の一面を垣間見た感じがした。
 その男性はユダヤ系アメリカ人で肉親の多くがナチスにより虐殺されたとのことである。私は歴史的事実に鈍感であったことを素直にわび、自分が沖縄出身であることを伝えて、しばらく世界平和、歴史、各民族間の認識等の違い等について話し合った。そして最後に「今日の素晴らしい1日を大切に、これからも毎日が平和で幸せな日々でありますように」と願い合った。
 外国でビジネスや生活をしていく上でもう少し、歴史的背景に敏感にならなければいけないと再認識させられた出来事であった。
(遠山光一郎・シンガポール現地法人社長)