【交差点】リスのカップル


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 シンガポールで4月に正式オープンした世界一の大観覧車にカフェを併設した店舗をオープンしてから、毎日のスタートとしてカフェで1杯のコーヒーを飲むのが私の新しい優雅な日課になった。カフェの窓からは今年9月から今後、5年間開催されるF1のレース場が一望できる、とはいっても突貫工事中なのだが。

 シンガポール政府は大観覧車が位置するマリーナ地区を再開発地域に指定し、F1、カジノをはじめ、いろいろな大型施設が建設、計画中である。その再開発の今年の目玉の観覧車と、F1施設の間に数本の木が残されている。その哀れな木をコーヒー片手に眺めていると、2匹のリスが活発に動き回っているではないか。
 開発のため、相当不憫(ふびん)な生活を強いられているのだろう、かわいそうだなと感じながら、愛くるしい動きに時を忘れて観察を続けた。人間にすみかを壊され、苦しい生活を強いられているとは思えないほど、活発に生き生きと動き回っている。表情も何だか、明るく見える。このまま、開発が続けばさらに生活は苦しくなるだろう。カップルだから将来、子供もできて家族になるのに、暮らしていけるのだろうか? そんなお先真っ暗なリスの将来を勝手に案ずるお節介な私の心配をよそにリスたちは、残された数本の木々を優雅に駆け回り、今日も相変わらず元気だ。
 過酷な環境でも毎朝、明るいリスたちと出合えるようになり、私も、小さな問題や苦労にくよくよせず、リスたちのように与えられた今日1日を大切に優雅に過ごしていけたらいいな、と明るくなれるようになった。
 (遠山光一郎・シンガポール現地法人社長)