【島人の目】サラミ


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 鳴き声以外はすべて食べる、という沖縄の豚の食い方は生ぬるい。イタリアでは豚は鳴き声も含めて全部食ってしまう。というか、食肉処理されると決められた豚は、悲鳴を上げる間もないくらいに素早く徹底的に料理されて、イタリア人の胃袋に納められる。どうするかというと、肉やソーキや脳みそ、目玉や血や舌などを焼いたり、煮たりして普通に食べた後、残りの素材のすべてをミンチにして、サラミにして食うのである。
 サラミは基本的に肉や脂身をミンチにして腸に詰めこんだ保存食だが、それ以外の部分も混ぜて作ったものはコテキーノと呼んで区別し、新鮮なまま煮て食べることが多い。サラミには数え切れないぐらいに多くの種類があり、大きさも親指程度のものから人の胴体ほどの太さのものまである。味もさまざまでバラエティーに富んでいる。
 保存して生で食べるサラミは、適度な湿気の暗い貯蔵小屋の中につるして熟成させる。つるされたサラミは10日もすると表面にびっしりとカビが生えてくる。このカビがサラミに風味をもたらす。つまりミンチにして腸詰めにされた豚肉は、カビによってじっくりと熟成され、調理されていくのである。
 サラミの風味は熟成期間によってずい分と違う。イタリア人が好むのは期間が短いものである。びっしりとカビの生えた、新鮮だが生肉同然のサラミを切って口に入れるとき、彼らはなんとも言えない至福の表情をする。それは咀嚼(そしゃく)する前からとろりと舌にからみつくほどにまろやかで、甘くて、しかも適度に辛い豊潤な味わいがあるのである。
(仲宗根雅則・イタリア在住、TVディレテクター)