【島人の目】島とマフィア


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 欠席裁判で6つの終身刑を受けながら43年間逃亡し続けたマフィアのボスのベルナルド・プロヴェンツァーノがシチリア島で逮捕された。パレルモ近郊の農家に潜んでいるところを軍警察に踏み込まれたが、逃亡期間のほとんどを同市内で過ごしたと見られている。
 マフィアのトップの凶悪犯が、人口70万人足らずのパレルモ市内で、一時期は妻子まで連れて43年間も潜伏することが果たして可能か、という議論が起こった。それは無理だと考える人々は、イタリアの総選挙で政権が代わったのを契機に何かが動いて、ボス逮捕のGOサインが出たと主張する。
 それはつまりこの国に、マフィアよりもマフィア的な巨大な黒幕が存在する可能性を示唆する。なにしろ7回も首相を勤め、イタリア政界を牛耳ってきたジュリオ・アンドレオッティが、隠れマフィアの一員だった、という容疑で起訴されたりする国である。そういうことがないとも限らない。
 また、こうも考えられる。シチリアは沖縄よりもはるかに面積が大きいが、れっきとした島である。大ボスは島に潜伏していたからこそ長期間つかまらずにいた。四方を海に囲まれた島は逃亡範囲に限界があるように見えるが、よそ者を寄せつけない島の閉鎖性を利用すれば、つまり島民を味方につければ、逆に無限に逃亡範囲が広がる。警察関係者や政治家等の島の権力者を取り込めばなおさらである。そうしておいて敵対する者はうむを言わさずに殺害してしまう。
 島全体に恐怖を植えつければ住民は報復を恐れて押し黙り、犯罪者や逃亡者の姿はますます見えにくくなっていく…それが実はマフィアのやり方なのである。
(イタリア在住、TVディレクター)