【島人の目】島とマフィアII


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 先日逮捕されたマフィアのボスのプロヴェンツァーノは、1000人以上の殺害に関(かか)わり、870億円余の個人資産を蓄えていたとされる。マフィアは「みかじめ料」だけで年間約1兆4千億円を巻きあげ、土建業や売春や麻薬密売やテロや賭博等でさらに莫大(ばくだい)な収益を上げる。組織は集めた金を政治家や権力者にばらまき、国家権力の中枢近くにまで入り込んでいる可能性がある。
 イタリアのマフィアはシチリアという島を拠点にしている限り壊滅することはないと僕は思う。なぜならマフィアとはシチリア島そのものだからである。シチリア島民のすべてがマフィアの構成員という意味ではもちろんない。それどころか彼らは犯罪の被害者であり、誰よりも強くマフィアの撲滅を願っている人々である。それでいながらシチリアの島民は、従わない者を皆殺しにする犯罪組織への恐怖と、シチリア人の誇りという二重の感情に縛られて沈黙を続け、その結果マフィアに協力してしまう形にもなる。
 島は古代ギリシャ植民地時代以来、外からのさまざまな力に支配され続けてきた。その反動で島民同士は結束を強め、かたくなになり、シチリアの血を強烈に意識するようになった。島の血をことさらに重視する彼らの誇りは、犯罪結社のマフィアでさえ受け入れ、かばい、称賛する心根まで育ててしまう。なぜならマフィアもシチリアで生まれ、シチリアで育った、シチリアの一部だからである。マフィアは島の人々の心根が変わらない限り根絶することはできない。同時に、マフィアが根絶されない限りシチリア島民の心根は変わらない。マフィアはそれほど深く広くシチリア社会の中に根を張っている。
(仲宗根雅則・イタリア在住、TVディレクター)