【島人の目】サッカー狂騒曲


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 W杯を制したイタリアでは国中が歓喜に包まれた。仕事を通してイタリアのサッカーを間近に見てきた僕は、世界のサッカーの頂点にいるのはイタリアとブラジルだとずっと考えている。イタリアのゲーム展開はブラジルほど派手ではないが堅守と頭脳的なプレーはブラジルの強さに匹敵する。1994年のW杯決勝のPK戦でイタリアがブラジルに勝っていれば今ごろはW杯の過去の優勝回数でイタリアが5回、ブラジルが4回と逆転しているところだった。
 今回の決勝戦ではジダンとマテラッツィのけんかが話題になった。僕はTV番組の制作で両選手と面識がある。ジダンは物静かで真摯(しんし)な男である。マテラッツィは人は良いのだが、ピッチでは危険プレーや挑発行為で悪名が高い。当然ジダンに味方したくなるのが人情だが、実はマテラッツィに挑発行為の前科があるようにジダンにも過去に何度も「キレ」た前科がある。
 プロの試合では挑発行為は日常茶飯事だ。一流選手は挑発行為には乗らない。乗ってはならない。それが一流の条件だ。ジダンはどこから見ても一流選手である。一流どころか超一流の選手だ。でも彼は例えばペレやマラドーナやプラティニやバッジョのような「一級の」超一流選手ではない。ジダンファンの一人としては寂しい限りだが僕はそう考えることにした。
 イタリアのファンは今はW杯優勝の喜びやジダン事件も忘れてサッカー醜聞の行方をかたずをのんで見守っている。ジダンも所属した名門クラブ「ユベントス」の幹部が審判と癒着した問題が起こって国中が揺れているのだ。
 ことサッカーに関する限りこの国では1年中にぎやかな話題がつきない。おそらくこれもイタリアサッカーの強さの秘密の一つなのだろう。
 (仲宗根正則 イタリア在住、TVディレクター)