【島人の目】ブドウと島の海と


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 商業ベースでワインを造っている自家のブドウの収穫が今年は8月15日に始められた。アルプスに近いここ北イタリアの収穫開始は普通は9月に入ってからだから異常な早さである。ブドウの生産は温暖化の影響で年々早まっている。
 夏のイタリアは「テンポラーレ」と呼ばれる豆台風の季節である。真っ青な空にとつぜん黒雲がわいて稲妻が走り、突風が吹いて雷鳴が轟(とどろ)く。さっと起こって消える「テンポラーレ」が今年は7月から多かった。そのたびに暑気が吹き飛ばされ、8月に入ると夜は厚手の毛布を掛けなければ眠れないほどに寒くなった。それでもブドウの収穫は15日に前倒しして始められた。そこまでの成長がいかに早かったかの証しである。
 ブドウは20年前に比較すると平均10日ほど早く完熟するようになった。今年82歳になる義父はこの調子だと収穫はやがて春に行うことになりかねないと苦笑する。
 ブドウの話はそれでも僕にとっては新しい体験だから内心のんびりした感じでもいる。ところがそれを生まれ故郷の多良間島での体験に照らしてみるとたちまち暗い気分になる。
 島では幼いころよく遊んだ海岸のそこかしこが大きく侵食されている。アルプスのふもとでブドウが早く実る事実と、海水面が上昇して島の海岸が侵食されている現実は同一のものである。
 ブドウはさらに収穫が早まっても良いかもしれないが、隆起さんご礁からなる平坦なわが故郷の島は、もしかすると100年後には海中に没しているかもしれない、と考えたりすると僕はいても立ってもいられない気分になるのである。
(仲宗根雅則、イタリア在住TVディレクター)