【島人の目】命懸けの越境


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 アメリカに移住する人には、その人なりの苦難の歴史とドラマがある。陸続きの隣国、メキシコからの越境者いわゆる不法移民はわれわれ日本人の想像の域をはるかに越える場合が少なくない。私の友人から聞いた話をまとめてみよう。
 メキシコからカリフォルニアに不法で越境してきたCさんは24歳で、ロス郊外に住んで4年になる。身を固める気になってメキシコにいる幼なじみのMさん(22)に電話をしてアメリカへ来ることで話がまとまった。
 ヒダルゴ州からメキシコ市まで車で2時間、それから飛行機でテイワナ市まで3時間かかった。そこまでは入国する人が支払うことになっているという。そしてテイワナで2、3日待機して、サンディエゴに突入する日を決める。
 コヨーテと呼ばれるこれまた不法の「運び屋」にすべてを任せる。コヨーテへの支払いはアメリカで待つCさんと約束が交わされている。いわゆる成功報酬というわけ。1人1500ドルかかるのだという。コヨーテと一緒に5人が、朝早く国境沿いに監視員のいない時刻を見計らって決行したが2度失敗、テイワナへ連れ戻
された。3度目が失敗したらもうアメリカ行きはあきらめるのだとの連絡が入った。
 その日は6人がコヨーテと一緒に、砂漠に2泊した。南カリフォルニアの8月の気温は昼間が38度ぐらい、夜は23度ぐらいまで下がる、温度の差が激しい所だ。命を失った者もいる、心細い。故郷を離れて10日目にやっと実現。CさんとMさんは今一緒にアパートに住んでいる。ブッシュ大統領の不法入国阻止強化策にもかかわらず、メキシコからの越境者は後を絶たない。
(当銘貞夫・アメリカ通信員)