夏の間仕事が忙しくて休みが取れなかったので、先週から妻の実家の所有する別荘で遅い短いバカンスを過ごしている。場所はイタリア最大の湖、ガルダ湖畔である。
窓外の湖面には色づき始めた柿がたわわに実って影を落としている。柿はイタリア語でも「カキ」と呼ばれる。そのことから分かる通り柿はもともとイタリアにはなく、昔日本から持ち込まれたもので、ほとんどすべてが渋柿である。
そのままでは食べられないから、イタリア人は容器や袋に密封して暗がりに置き、実がヨーグルトのようにとろとろになるまで熟成させてから食べる。そうすると渋みがなくなって甘くなる。たまに外国産の硬い甘柿が売られているが、彼らはそれもわざわざ完熟させて極端に柔らかくしてから食べる。要するにこの国の人々にとっては柿とは、液状に柔らかくなった実をスプーンですくって食べる果物のことなのである。
かつて日本から柿をイタリアに持ち込んだのは恐らくキリスト教の宣教師だと思うが、その際彼らがあえて渋柿を選んだとは考えられない。きっと渋柿と甘柿の苗木を間違えたのだ。あるいは甘柿のなる木が多くの場合、接ぎ木をして作られるものであることを知らなかったのだろう。
そんな訳で「普通の」柿が大好きな僕はいつも欲求不満になる。イタリアの柿はあくまでも「カキ」であって、さくりと歯ごたえのある日本のあの甘い柿とはまるきり別の果物だと感じるのである。
(仲宗根雅則、イタリア在住TVディレクター)
【島人の目】柿とカキ
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琉球新報社
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