『勝利のうたを歌おう』 復帰後の県系選手に密着


社会
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『勝利のうたを歌おう 沖縄人ボクサーは何のために闘うのか』新垣譲著 ボーダーインク・1600円

 本書は沖縄出身、あるいは県系ボクサー6人に、並走するように密着取材し、彼らの人生を描いた作品である。また、平仲明信以来、沖縄が世界王者を出していないのはなぜか、というテーマにも取り組んでいる。

 著者は、復帰後世代のボクサーたちは、沖縄がボクシング全盛時に輩出した具志堅用高たちのような世界王者に比べ、沖縄を背負って闘おうという気持ちは希薄であり、また時代も彼らに背負うをことを求めていないと書く。なぜならば、沖縄が本土に受け入れられるようになり、また沖縄も本土に同化しつつあり、双方の距離感が昔に比べて縮まっているからだ。本書に登場するボクサーたちの肩書も日本王者が最高だ。
 著者は、都市圏でボクシングを通して葛藤しながら生きている、県系の若者たちに引かれて、本書を書くようになった。沖縄という文脈をはずしても、若いボクサーたちの物語は、魅力的で、普遍性を持って読者に訴えかける。
 登場する若者たちは別段、貧困から抜け出す手段として、ボクシングを選択した訳ではなく、運命の糸に手繰り寄せられるように、この競技にのめり込んだ。ある者はグラブを置いて新たな人生を選び、またある者はボクシングに夢を追い続ける。物が満ち足りた日本で、あえて殴り合うことをなりわいに選んだ若者たちの人生に引かれ、著者は彼らに並走していく。
 著者は、今の沖縄から、具志堅のようなボクサーが出ても、当時のような存在にはなり得ないと主張する。本土対沖縄という対立構造が弱まる中で、沖縄を本土に認めさせるボクサーは特に必要とされないからだ。果たしてそうだろうか。経済的にも、文化的にも壁は低くなってきても、現在の米軍基地問題で浮き彫りになっているように、沖縄への差別の構造は続いている。そのような閉そく状況をぶっとばすような、ヤマトといわず、世界を席巻する沖縄人ボクサーの出現を望みたい。
(高嶺朝太・翻訳者、編集者)
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 あらかき・ゆずる 東京都生まれ。週刊誌編集者を経てフリーのライター。著書に「東京の沖縄人」(ボーダーインク)。千葉県在住。