『なぜなぜ八重山の民話』 自然の豊かさが充満


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『なぜなぜ八重山の民話』大石直樹再話 沖縄自分史センター・1600円

 民話は本来、本で読むものではなく誰かが語るのを聞くものであった。だから、1973年以降の県内民話調査で7万3千話もの話が記録されたと知っても、それを聞いたのは調査に参加した人々であり、ほとんどの県民はその内容を知らない。その豊かさを知らない。

 そんな民話伝承事情の中で、希有(けう)な民話集が出版された。再話者の大石直樹さんは、家族から多くの民話を聞いた体験を持つ。そのことがどれほど貴重なことか、この本を読んで実感した。
 「神様は、人間が好きだったわけさあ」。彼に話をしたおじいさんの口癖だったというが、本に書かれる話もやさしく、愛情深く語られている。話ごとにアンガマのウシュマイとンミーのコメントがあり、実際に語りかけられたように温かい気持ちになる。
 先日、ある集会で、本物の火、炎を見たことが無い小学生が増えていると聞いた。最近はガスコンロでなくても料理ができる。「火は、熱いの、痛いの」そう聞かれて、便利さの中で子ども達に伝わってないこと、伝えてないことが多いことに気づきがくぜんとした。
 だから今こそ、この本を読んでほしい。子ども達に読み聞かせてほしい。便利さとは無縁だけれども、私達を取り巻く自然の豊かさが充満している。
 八重山だけでなく、まだ沖縄中でニヌファ星(北極星)もムリ星(昴)も見られるし、元は牛だったというクジラに会うこともできる。話に登場する草木も動物も魚達も、まだ身近に見ることができる。子どもも大人も「ああ、そうか、そうだったんだ」納得する話がいっぱいだ。これこそ子ども達に伝えたい。
 本の最後にかなり詳しい登場物の説明と、神様、人間、動植物の相関図が描かれている。子どもの時に聞いた話を「なぜ、なぜ」と思いながら調べ続け、出来上がったのだろうと思うと、これを見るのも楽しい。
 (大田利津子・沖縄県子どもの本研究会事務局長)
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 おおいし・なおき 1960年、竹富町小浜島に生まれる。八重山毎日新聞記者を務め、書籍編集者。詩人。「詩集 八重山讃歌」で第31回山之口貘賞受賞。