『ワイドー沖縄』 静かに心の根に迫る


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『ワイドー沖縄』与那覇幹夫著 あすら舎・1500円

 この詩集を読んでの第一印象は次のようなものであった。ぼくらは、もしかしたら多くの偽りの詩、強がりの詩だけを読まされてきたのではなかったか。そしてイメージや刺激を喚起させる作品はいい作品だ。

 この思いはオーバーで極端すぎると言わなければならないが、しかし『ワイドー沖縄』を読んでいると、ふとそのような思いに瞬間、とらわれたのである。内部に何かを喚起させてくれる作品は優れているというのは当然のこと。
 率直に言おう。ぼくは詩集をめくっていて、「形見の笑顔」で眼を潤ませ、「知念さんのお使い」でクスクス笑い、「神様、ルビを振ってもいいですか」でうなっていた。
 いやいや、これらの詩は代表としてあげただけで、そういうのが複数あるのである。
 おそらく与那覇氏は並の人以上に感動し、並の人以上に執着するという「感極まること過大で幼児の如し」状態を生きているのではないかとさえ思った。そして、これこそ詩人というものの一大要素なのかもしれないと。
 「形見の笑顔」で取り上げられている歌は1959年に福岡刑務所で死刑された長光良祐といわれている死刑囚のものだと思われるが、彼はまた「母の待つ ふるさとばかり ひたに恋いし 死ねば環ると あわきなぐさめ」ともうたっている。
 母が子を育てる苦労は、あの「ヨイトマケの唄」の復興期の貧しい時代にかさなってくるから、経験した者らの涙を誘うのである。ぼくの母もそうであった。すまない、すまない、ごめん、ごめんと壁を打つしかないのである。
 与那覇氏の、おとしどころを十分に心得た詩は、どれも完成度が高く、静かに静かに波打って心の根に迫ってくる。ああ、このような詩を書く詩人が沖縄にいるのだという感じなのである。
 (比嘉加津夫・脈発行所主宰)
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 よなは・みきお 1939年宮古島市生まれ。83年に「赤土の恋」で第7回山之口貘賞受賞。