『〈オキナワ〉人の移動、文学、ディアスポラ』


社会
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『〈オキナワ〉人の移動、文学、ディアスポラ』山里勝己 石原昌英編 彩流社・2200円

沖縄文学への新視点
 「ディアスポラ」という言葉は興味深い。〈離散〉を意味するギリシャ語で本来はパレスチナを去って世界各地に居住する離散ユダヤ人とそのコミュニティーを指す言葉だという。この視点を援用して沖縄のアイデンティティーや「沖縄文学」について考えてみようというのが本書である。琉球大学「人の移動と二一世紀グローバル社会」プロジェクト叢書の1巻である。

 編著者の1人、山里勝己は次のように述べる。「二○世紀初頭の沖縄人の海を越えて環太平洋に拡散していく移動は、征服、亡国、併合、そしてそれにともなう旧体制の融解がその背景にあった。沖縄をめぐる一九四五年の激烈な地上戦は土地を強奪され住み慣れた場所を喪失して再び海を越えて環太平洋に拡散する人々の移動をもたらした。このような移動は故郷や伝統や固有文化の喪失を伴い、文学には〈移動の不安〉に苛まれながら土地を追われ、漂流し、定住地を求めて新たな世界へと浸透していく大衆が描かれるようになった」と。
 この問題意識によって昨年度琉球大学に招聘(しょうへい)された「ディアスポラ」文学の研究者の講演を基本に編集されたのが本書である。第一部は「沖縄ディアスポラの文学」。マウイ島生まれの二世作家ジョン・シロタの作品が生まれた背景や、『踊り』の著者で沖縄系カナダ人作家ダーシー・タマヨセへのインタビューが収載されている。第二部は「移動する沖縄文学」。米国に舞台を移した戯曲「カクテル・パーティー」について、大城立裕とフランク・スチュワートとの特別対談や、「抑留三部作に見る『移動』」として宮里静湖の作品が論じられている。第三部は「〈旅〉と文学」。〈移動〉を沖縄だけの問題ではなくより大きな視点から映し出すために、管啓次郎、野田研一、笹田直人の講演が収載され、いずれも興味深い研究成果だ。
 かつて「ノマド」という言葉に衝撃を受けたことがある。「コンタクトゾーン」といい「ディアスポラ」といい「沖縄文学」を考える視点はますます多様になった。
 (大城貞俊/作家・琉球大学教授)
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 やまざと・かつのり 琉球大学法文学部教授。著書に「〈移動〉のアメリカ文化学」など
 いしはら・まさひで 琉球大学法文学部教授。編著に「沖縄・ハワイ コンタクト・ゾーンとしての島嶼」など。