『市民の外交』 国内で解決せぬ沖縄問題


社会
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『市民の外交』上村英明・木村真希子・塩原良和 編著、法政大学出版局・2300円

 「沖縄は、日本ですか、日本人ですか?」とテレビのインタビューに答えたのは儀間光男浦添市長(当時)だった。保守系首長のその発言は、沖縄へのオスプレイ強行配備と米兵の凶悪事件の頻発をうけたものであった。
 その言葉は、いま、ヤマトから差別・蔑視・迫害されている大方のウチナーンチュの心情を代弁している。

また、K日本人牧師が、「沖縄の人たちと共に基地反対闘争をしていても」「植民地の加者としての立場の自分がいる」という言葉も、心あるヤマトゥンチュの心情を代弁している。本書での宮里護佐丸「琉球弧の先住民族会」代表と「先住民族の権利」活動にかかわってきた親川裕子大学非常勤講師の発言内容で、前市長、K牧師のこれまでは公言できなかった言葉に、真正面から向き合ってきた人たちがいたと、大方の読者は知ることになろう。
 かれらは、「先住民族」をキーワードに、ヤマトに押し付けられた人権・基地問題を、「国連の先住民族作業部会」でのアピール活動で実績を積んできている。それは、市民外交センターの支援によるものである。
 そして2008年、国連に沖縄を先住民族だと認知させるほど、沖縄の新世代が沖縄の課題解決を多角的に取り組んできているのは注目に値する。
 本書は、市民外交センターの30年の活動の記録書でもあり、その多岐にわたる活動は、座談会、コラム、論考、インタビュー構成で輪郭がみえてくる。
 上村英明市民外交センター代表は、市民が外交する理由を、「先住民族の問題は国内の論理や制度だけでは絶対解決しません」「民主主義の制度の下では、多数決の論理でその意思は基本的に否定されてしまいます」と喝破している。沖縄の県知事・自治体首長らが、基地問題の解決を求めて、米国政府などへ直訴行脚するのは、まさしく、上村代表の高い見識を体現しているようなものといえよう。アイヌ民族問題に紙面の制約で触れることができなかったのは、心残りである。
 (石原昌家・沖縄国際大学名誉教授)
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 うえむら・ひであき 恵泉女学園大学教授、市民外交センター代表
 きむら・まきこ 大学非常勤講師、市民外交センター副代表
 しおばら・よしかず 慶応義塾大学教授、市民外交センター事務局

市民の外交: 先住民族と歩んだ30年
上村 英明 塩原 良和 木村 真希子
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