『歌集 ルルドの光』 社会見つめ、未来を憂える


社会
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『歌集 ルルドの光』 伊志嶺節子著 ながらみ書房・2500円

 伊志嶺節子第1歌集『ルルドの光』が出版された。氏の歌歴や年齢からすると遅きの感は否めないが、「今この時が、私に与えられた時」というあとがきの言葉や60代の熟年の歌を読むと、納得がいく。

 宮古島出身の氏は若い時に島を出て、異郷に暮らし、近年島に帰ってきたという。この歌集を「亡き父と現在94歳の母に捧げる」という文には父母への感謝と贖罪(しょくざい)の意もあろう。故郷詠には万感の思いが溢(あふ)れている。
・纏(まと)いつくDNAの枷(かせ)を逃れんと遠くばかりを見つめた若き日
・歳老いて病む父看取る母さんの悲歌知らずして離り住む子ら
・臥す父の傍らに座しひなたぼっここのひとときの長くあらんを
・娘を先に逝かせし母の後姿かなしきまでに小さくなりて
 氏は、2011年3月11日の東日本大震災の後には東北の地を訪ね、復帰40年目の沖縄と基地の問題を見つめ、戦場のイラクの子供たちを悼み、祈る。静かに社会を見つめ、是は是、非は非とする厳しい姿勢を持って、沖縄の今を未来を憂える。
・沖縄の地下に眠れる不発弾目覚めを誰も知らずに歩く
・若夏の空に飛び散るヘリ機音復帰四十年も変わらぬままに
・この海につながる東北たましいの震えのように波打ち返す
・寄り添える菜の花の黄閖上(ゆりあげ)の街守るごと風にそよげり
・さくらさくら この美しきもの見ずして死ぬイラクの子らよ大地に帰れ
 信仰に支えられた氏の心は聖地を訪れることでさらに勁(つよ)く、優しくなり、その清しく生きる姿は読む者の心に残る。現代表記のわかりやすい作品群、歌集名を取った歌をあげて、一読をお勧めしたい。
・国々のアベマリア響きローソクの行列続く ルルドのひかり
 (謝花秀子・日本歌人クラブ会員)
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 いしみね・せつこ 1944年台湾生まれ。紅短歌会に所属。「心の花」に入会。2011年に第15回全九州短歌大会短歌新聞社賞受賞。13年第34回琉球歌壇賞受賞。

ルルドの光―歌集
ルルドの光―歌集

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伊志嶺節子
ながらみ書房