『耐えてこそ花は咲く』 土性骨起業家の沖縄戦後史


社会
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『耐えてこそ花は咲く』 津波古勝三著 第三企画出版・1800円

 本書は、著者の自叙伝であるが、72年にわたる人生の回顧を縦糸に、戦後沖縄の政治、経済、社会、産業、文化、教育を横糸に織り成した貴重な沖縄の戦後史として高く評価される内容となっている。
 本書は第1部「『米留』『日留』の選択と人生の岐路、第2部「兄弟3人で起業、協同組合に尽力」、第3部は「土性骨を入れ怯(ひる)むことなく努力せよ」、第4部「日本人の心を伝えていく義務」―の4部構成となっている。

本書を貫くものは、希望をもって努力し、忍耐と誠実さ、そしてあくなき情熱を燃やして人生を一途に歩んで行こうと努力すれば、願いは必ず実現する。人生は苦しいこともある、悲しいことも多い。だからこそ、そこで負けてはいけない。くじけてはならない。この信念こそ本書のタイトル「耐えてこそ花は咲く」のである。
 著者は、沖縄県中小企業団体中央会会長の要職にある。99・9%が中小企業によって支えられている本県において、個々の中小企業が過当競争を繰り返していては、沖縄経済の自立化はのぞむべくもない。相互扶助の精神に基づく共同事業の実現によって高い付加価値を創造することこそが、本県の中小企業が生き抜く唯一の道である。津波古氏は、沖縄県生コンクリート組合のリーダーとして、最も困難と言われた生コンの協同組織の確立と共同事業の実現によって、協同組合の沖縄モデルを構築した特筆すべき人物である。本書の中にその神髄が記述されている。
 本書から著者の人間像を探ってみると、その原点は少年期にある。太平洋戦争によって父と長兄を亡くし、残された兄弟3人は母親の手一つで育てられた。厳しくもあり優しくもあった母のしつけこそ、著者の人生の礎を築いたのである。兄弟仲良く起業し成功したのも、極貧生活の中での家族愛が実を結んだからである。津波古氏は人間愛に満ちたヒューマニズムの精神によって、協同組織化を成功させた類いまれな人物である。
 本書は、特に中小企業の後継者や青少年の心の糧となる貴重な文献として大いに役立ててほしい。
 (百瀬恵夫・明治大学名誉教授)
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 つはこ・かつぞう 1941年与那原町生まれ。県生コン産業協同組合連合会会長。県中小企業団体中央会会長。