「一緒に漁できない」 漁業協定発効 合意水域現場ルポ


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 【八重山】操業のルール作りができないまま10日に発効した日台漁業協定。台湾が自国の排他的経済水域(EEZ)のラインと主張する暫定執法線を越え、日本が先島北で台湾側に操業を認めた法令適用除外水域は、9日深夜から10日未明にかけ、日本漁船も台湾漁船も操業していなかった。本マグロ漁のシーズン真っただ中にもかかわらず、有数の好漁場は異様な静けさを保っていた。

 八重山の記者団は9日夜から10日未明にかけ、漁船で法令適用除外水域を取材した。午後9時ごろ、水域の境界線に日本の取締船らしき船が2隻待機していたが、それ以外はタンカーの姿のみ。日本漁船も台湾漁船も見当たらなかった。
 ただ、10日昼ごろ、操業が新たに認められた尖閣諸島南方海域では、台湾当局の巡視船や台湾漁船の姿が、共同通信の取材航空機から確認できた。巡視船が警戒する中、漁船の乗組員は漁の準備に奔走していた。
 八重山の記者団の航行中は、ひっきりなしに台湾漁船からの無線が入った。台湾漁船が搭載している無線は日本の無線よりも電波が強く、遠距離からでも受信できるという。台湾漁船がどの位置から無線を発信したのかは分からないが、八重山の漁師が利用してきた好漁場が、台湾の漁師の独壇場になろうとしている一端が見えた。
 「高価な縄をわざわざ捨てに行く漁師がいるわけないさ」。9日昼、石垣港内で道具を手入れしていた漁師の金城一雄さん(62)と長浜三男さん(50)は声をそろえ、法令適用除外水域での操業を否定した。
 マグロはえ縄漁船が使う縄の価格は400~500万円。1300本もの枝縄を付けるのは漁師の手作業で、製作に2、3カ月もかかるという。
 八重山のマグロ漁船は、4月中旬~6月末までの本マグロシーズンに、年間の2分の1から3分の1の収入を得る。台湾漁船に縄を切られてしまったら、そのシーズンは漁ができず、打撃は大きい。
 マグロはえ縄漁は漁船が2、3カイリ(3・7~5・5キロ)で等間隔に並び、縄が絡まないように同じ方向に入れる。漁船同士の不文律は多く、無線で連絡を取り合わないと、うまくいかない。何度も台湾漁船と遭遇している長浜さんは「言葉も通じないのに一緒に漁ができるわけない」と漁業協定を一蹴する。今シーズンは同水域での操業を諦め、沖縄本島からの漁船も密集する波照間南の海域で操業する予定だ。(稲福政俊)

取材した海域の航路を確認する漁船の船長。左のレーダーが台湾漁船の船影を捉えることはなかった=10日午前4時ごろ、石垣港内
日台漁業協議“合意水域”