『人の移動、融合、変容の人類史』 普遍的な知見への試金石


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『人の移動、融合、変容の人類史』我部政明、石原昌英、山里勝己編 彩流社・4200円

 「人の移動と21世紀のグローバル社会」は、沖縄の固有性と外国の諸研究機関との連携融合による普遍的な知見の発信をめざす、壮大なプロジェクト研究である。学問が過度に専門化・細分化し、物事の本質そのものを見失う傾向にある今日、これほど多分野にわたる学際的プロジェクト研究を、総合大学である琉球大学が学部間を超えて協力し合うことは、そう容易(たやす)い試みではない。

まずは、本プロジェクト研究の代表者である山里勝己教授(現・名桜大学副学長)の学術的懐の深さと多世代の研究者らが寄せる信望の厚さとその組織力に敬意を表する。
 本書「人の移動、融合、変容の人類史」の大きなテーマのひとつは「人はなぜ移動する/したのか」である。端的に言えば、人はその時住んでいる土地や状況に満足しないために移動する。よりより生活を求め、新しい土地での成功を夢見るため移動する。「銃・病原菌・鉄」(ジャレット・ダイアモンド著)という作品があるが、同じく人の移動に関して、多岐にわたる学問分野の最新の研究結果を踏まえ、世界5大陸に根付いた人類社会の発達のありさまを1万3千年というスパンの中で考察している。一見、本書はその壮大な作品を髣髴(ほうふつ)させる。ジャレットは人の移動の歴史の中で民族間の主従や貧富の差が銃や鉄を所有するか否かで生じたこと、また人種間の知能やもろもろの能力の差と、所有の有無は一切無関係であることを証明し、それを結論として導いている。
 確かに本書は、多分野にわたる沖縄の人の移動に関する研究の集積としては申し分ない。しかし、欲を言えば多岐にわたる研究分担・協力者たちが、ジャレットのように一貫した、あるいは系統的な研究仮説を立て、それを証明すべく研究を推し進めると、さらに構造的かつインパクトの強い結論を導き出せるのではないか。とにかく本書は沖縄の人の移動に関する事例研究が、世界に対し普遍的な知見を呈するための試金石となる作品である。本書のさらなる展開に大いに期待したい。
(小川寿美子・名桜大学教授)
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 がべ・まさあき 琉球大学国際沖縄研究所所長
 いしはら・まさひで 琉球大学法文学部教授
 やまざと・かつのり 琉球大学法文学部教授を経て名桜大学副学長。