『悪知恵のすすめ』 鹿島茂著


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フランスの寓話を現代にリサイクル
 『ウサギとカメ』『北風と太陽』など古代ギリシャのイソップ寓話は有名だが、それをもとに17世紀フランスの詩人ラ・フォンテーヌが書いた寓話集はほとんど知られていない。名エッセイストでもあるフランス文学者が、その寓話集に詰まった叡智と毒を読み解いて、現代社会に応用した。

 「無知な友より賢明な敵のほうがまし」「遠くから見ればたいした人物だが、近くから見るとろくでもない」など寓話集から引き出した含蓄ある教訓話が42編。
 たとえばイソップ寓話の『酸っぱいブドウ』。熟したブドウを見つけたキツネが跳び上がって取ろうとするが、どうしても届かない。「どうせまだ酸っぱいブドウだろ」と捨てぜりふを吐いて去る。つまりは負け惜しみ。見苦しいという教え。
 だがラ・フォンテーヌは違った。「愚痴をこぼすよりもましなことを言ったではないか」とキツネの態度を肯定し、「手が届かない富や地位をうらやむのは愚の骨頂」という全く異なる教訓を引き出した。著者はそこに「負け惜しみこそ精神の健康法」というフランス式処世術を読み取り、転じて中国市場に安易に乗り出す日本企業に、どんなに誘惑が強くとも「どうせリスクがいっぱいだろ」と言って見過ごす見識を説く。
 連載をまとめたものなので取り上げる時事問題は古びてしまうが、古代ギリシャの寓話は現代にもリサイクル可能な鮮度を保っている。気に入った金言。「見かけで判断するのはよくないが、判断は見かけでしかできない」
 (清流出版 1700円+税)=片岡義博
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片岡義博のプロフィル
 かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!
(共同通信)

「悪知恵」のすすめ -ラ・フォンテーヌの寓話に学ぶ処世訓-
鹿島 茂
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『悪知恵のすすめ』 鹿島茂著
片岡 義博