『ジァンジァン狂宴』 創造空間の重要性説く


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『ジァンジァン狂宴』高嶋進著 左右社・1700円

 国際通り、沖縄三越の隣、スターバックスコーヒーが入るビルの地下にあった小劇場・沖縄ジァンジァン。渋谷、名古屋に続き、開場したのは1980年2月。最初の演目は、津軽三味線の高橋竹山の演奏会だった。

 黒と灰色で塗りつぶされた約百席の異空間は国際通りの喧噪(けんそう)と隔絶され、観客は深遠な表現の世界へと迷い込んだ。演劇、音楽、ダンス、映画、朗読などの公演が365日繰り返され、沖縄の伝統芸能や本土の著名な演者の公演が行われた。
 本書は、ジァンジァンの劇場主であった高嶋進氏がつづった自伝的小説である。主人公・了作の目を通して紡がれる物語は、69年に東京で、詩と音楽の融合の場を確保するために開場した、渋谷ジァンジァンのオープン前夜から始まる。
 劇場開場に至るまでの資金集め、営業許可をめぐる役所とのやりとり、客の不入り、増えていく赤字、出演料の源泉徴収や音楽著作権使用料の問題、家主との確執。劇場経営の上で生じる問題に直面するたびに、了作は苦闘しながら神経をすり減らす。
 一方で、多くの企画が好評を得る。シャンソン歌手、ジュリエット・グレコの公演が実現し、美輪明宏や淡谷のり子といった時代を代表する歌手も、その空間にほれ込んだ。シェイクスピア全作品を6年がかりで上演し、文楽とロックを融合させた「曽根崎心中」を発表。中村伸郎による不条理劇「授業」は、11年間の上演で、公演回数は500回を超えた。
 本書では、苦戦を強いられる中にあっても、劇場という場が、強力な創造力、企画力、発信力をもって表現に触れて、新たな芸術や文化を作り上げていくことの重要性が描かれる。アート・マネジメントの概念が生まれる前、より早い段階で実践的に同様のことが行われてきたのだ。
 小劇場の空気の濃密さや直接性は、ウェブ上の仮想空間とは真逆。だからこそ、劇場という空間があらためて見直されるべきなのではないか。熱を帯びたあの時代の物語は、現在の視点で見て十分な説得力で伝わってくる。
 (野田隆司・桜坂劇場プロデューサー)
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 たかしま・すすむ 1932年、新潟県生まれ。80年沖縄ジャンジャンを開設。

ジァンジァン狂宴
ジァンジァン狂宴

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高嶋 進
左右社
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