『二流小説家-シリアリスト-』 “いかに映像で表現するか”への強いこだわり


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 原作は、『このミステリーがすごい!』など海外ミステリーの人気ランキングで3冠に輝くベストセラー小説。舞台を日本に移し替えた以外は、至って忠実に映画化している。官能小説などで食いつなぐ売れない小説家が、シリアルキラーの死刑囚から告白本の執筆依頼を受けるが、その取材中に連続殺人事件に遭遇し…。つまり巻き込まれ型の主人公が身の潔白を証明するために真犯人を暴く、ヒチコックばりのサスペンス映画である。

 映画には、そもそも“ミステリー”というジャンルは存在しない。探偵(役)が最後に事件の真相を解説するという構造が、映像向きではないからだろう。だからミステリー小説を原作に持つ本作も、その点に腐心している。拘置所での面会、警察の取り調べ、取材シーンなども含め、どうしても会話や説明ゼリフを多用せざるを得ないため、単調な切り返しだけでなく、ピン送りや色使いなどで同様の効果を生む視覚的な工夫が凝らされているのだ。
 また、原作の重要なテーマである“読書へのリスペクト”を再現するためセットに大量に持ち込まれた本を、観念としてではなく物=小道具として活用するなど、“いかに映像で表現するか”への強いこだわりが感じ取れる。『遺留捜査』『相棒』シリーズなどTVで活躍する猪崎宣昭監督の、“映画”を撮ることへの気概がうれしい。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督:猪崎宣昭
原作:デイヴィッド・ゴードン
出演:上川隆也、武田真治
6月15日(土)から全国公開
(共同通信)

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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
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外山 真也