『インポッシブル』 津波の脅威を描く説得力が素晴らしい


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 2004年に起きたスマトラ沖地震の実話に基づく映画だ。冬期休暇を過ごすためにタイを訪れたイギリス人一家が、巨大津波に襲われて離ればなれになるが…。母親役のナオミ・ワッツが、今年のアカデミー賞で主演女優賞にノミネートされた作品だ。

 何と言っても、生々しい津波の描写に圧倒される。だが、いわゆるディザスター・ムービーではない。津波のシーンを除けば、ほとんどの時間が家族の絆を描くことに費やされているし、災害に見舞われた時、いかに対処すべきかについての示唆にもとんでいるから。
 監督は、スペイン製ホラー『永遠のこどもたち』のJ・A・バヨナ。日本ではギレルモ・デル・トロの製作作品として注目されたが、ことによるとバヨナの技量はデル・トロを凌ぐかもしれないと、本作を見ると思える。とにかく、さまざまなギミックを駆使して津波の脅威を描く、その説得力が素晴らしいのだ。さらには、恐らくホラーで培ったであろう、痛みや切迫感をあおる演出も巧み。ハリウッドで超大作を撮らせたくなるような、並外れた才能の登場を喜びたい。
 けれども本作の魅力は、やはり娯楽性だけではない。被災時の教訓とともに、ここでは情緒に流されない成熟した親子関係が提示されるから。被災者を含めた全ての日本人に、目を背けずに見てほしい。そう思わされる大人の映画である。★★★★★(外山真也)
 【データ】
監督:J・A・バヨナ
出演:ナオミ・ワッツ、ユアン・マクレガー
6月14日(金)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山 真也