『おもろを歩く』 第一級史料、読みやすく


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『おもろを歩く』おもろ研究会著 平山良明、大城盛光、波照間永吉編 琉球書房・3360円

おもろを歩く―おもろ研究会一五〇〇回記念誌

 琉球・沖縄の文化遺産を一つだけ挙げよ、と言われたら、何をおいても「おもろさうし」だろう。古琉球の人々の「思い」が口承の伝統で引き継がれ、16世紀に文字化された全22巻。琉球王国を多角的に見ることができる第一級の史料であり、民俗学・歴史学・言語学・文学・考古学などの学際的な研究テキストでもある。

 伊波普猷から仲宗根政善へと綿々と受け継がれてきた「おもろさうし」研究は、東京と沖縄にそれぞれ「おもろ研究会」を発足させ多くの研究者や愛好家を育んできた。伊波普猷に始まる東京に比べて、沖縄のおもろ研究会は1968年のスタートながら充実した発展ぶりで、本書はその1500回記念。私でもおもろ通になれるかもと勇気が湧く、入門書としてこれ以上の適書はないだろう。
 3部構成になっていて、第1部は勝連・今帰仁城・玉城村百名などの名勝を詠んだ歌や、喜舎場つくり子、百年踏み揚がり、謝名もい、ガサスワカチャラなどの伝説的な人物に関する歌などを考察。第2部は、おもろ読解に役立つ重要論考が転載され、第3部「私の一首」は、会員たちの好きな歌を解説する。その親しみやすい切り口が本書の醍醐味(だいごみ)であろう。第4部は、ゆかりの先生方による研究会の歴史や思い出。「『おもろ研究会』前夜」などは、読んでいて胸が熱くなる。
 連綿たる研究会に、私も1回だけ参加させてもらったことがあるが、老若男女を問わず侃々諤々(かんかんがくがく)と解釈を述べ合う自由闊(かっ)達(たつ)な雰囲気の中、近代的心性とは真逆のおもろに触れることができて非常に楽しかった。
 それにしても「おもろを歩く」とは、なんてぴったりのタイトルだろう。92年に「琉球新報」に連載した時のタイトルにちなんだとあるが、確かに「おもろさうし」には、琉球風土記の趣があるのだ。1554首に詠み込まれた土地や風物や祈りは、琉球の時空間に幾重にも沈殿して厚みのある詩情を奏でてくれる。
 大量の素材を読みやすくまとめて上梓された関係者や編者の「おもろ愛」に敬意を表したい。
(勝方=稲福恵子・早稲田大学)
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 ひらやま・りょうめい 1934年今帰仁村生まれ。名桜大学非常勤講師
 おおしろ・もりみつ 1935年北中城村生まれ。同村史編さん委員長
 はてるま・えいきち 1950年石垣市生まれ。沖縄県立芸術大学附属研究所教授