『沖縄 占領下を生き抜く』 翻弄の歴史、一次資料で語る


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『沖縄 占領下を生き抜く』川平成雄著 吉川弘文館・1700円

 今なお広大な米軍基地を抱える沖縄。その面積や駐留兵力の大きさから、そこから派生する事件・事故、騒音、環境破壊などが県民生活に及ぼす影響は大きい。今日、多くの人がこの状況に不満を抱き、米軍基地の整理縮小やその一部の県外・国外移転を主張しているのはそのためだ。

 ただ、沖縄には米軍基地に反対する声だけが存在するわけではない。マスコミではよく「県民の総意」という表現が使われるが、歴史を振り返っても〈沖縄の声〉が一枚岩であったためしはない。〈沖縄問題〉の複雑さはそこにある。
 特に近年、尖閣列島周辺で繰り返される中国海洋監視船による領海侵入や北朝鮮による核開発、ミサイル発射など、日本の安全保障への脅威は、沖縄の米軍基地をめぐる世論に少なからず影響を与えている。そして、基地負担と引き換えに、年数千億円にも上る政府からの莫大な補助金によって沖縄の振興政策が支えられているという現実もある。それでもなお、多くの沖縄県民が米軍基地に〈アレルギー反応〉を示すのはなぜか。その答えは沖縄の戦後史にある。
 27年間続いた米国統治時代には、在沖米軍の司令官が地元の最高権力者として君臨し、行政・立法・司法の三権を掌握していた。冷戦の前線基地として核兵器や毒ガス兵器までもが貯蔵され、1960年代後半には、B52戦略爆撃機が連日、嘉手納基地からベトナムの空へと飛び立っていった。街はベトナムからの帰還兵であふれ、事件・事故が絶えなかった。
 本書は、沖縄戦、朝鮮戦争に触れた後、「軍用地接収」「通貨交換」「毒ガス撤去」をメーンテーマとして取り上げ、「占領下を必死に生き抜いた」住民の生活に光を当てる。一貫しているのは、資料に語らしめようとする姿勢だ。琉球政府や米国政府の公文書、屋良朝苗日誌などの一次資料を織り交ぜながら、日米両政府の国策に翻弄(ほんろう)され続けてきた沖縄の姿を「史実」に基づいて描き出そうとしている。激動してやまない沖縄の今日的状況を考える時、歴史の持つ重みを教えてくれる1冊である。
 (仲本和彦・アーキビスト)
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 かびら・なりお 1949年与那国島生まれ。琉球大学法文学部教授。

沖縄 占領下を生き抜く: 軍用地・通貨・毒ガス (歴史文化ライブラリー)
川平 成雄
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