『捧げられる生命・沖縄の動物供犠』 土着信仰調査の画期的成果


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『捧げられる生命・沖縄の動物供犠』原田信男、前城直子、宮平盛晃著 御茶の水書房・2800円

 ここには3人の誠実な学究の研究成果の交響がある。本書は琉球弧の文化研究・日本文化研究に新たなる視界を開いた。原田信男氏は『歴史のなかの米と肉』(平凡社)の後に日本の動物供犠を探索し続け、その視点で沖縄を歩いた。

 シマクサラシという行事の主目的は流行病をはじめとする様々な厄災が集落に入りくることを防ぐ点にある。境界に注連縄(しめなわ)を張り、そこに、牛・豚・山羊・鶏・馬などの骨・肉をつったり、血を塗ったりする。宮平盛晃氏は2002~10年の間に沖縄全島の501集落で実地調査を行った。その結果、255の集落で現在もシマクサラシが行われ、246集落で途絶したことを確かめている。驚くべき調査である。動物供犠系呪術儀礼の総体や共同体の実態、本土の道切り網との連接などを考える上で画期的な成果だ。
 原田氏は動物供犠に関する概説ともいうべき「儀礼と犠牲」を執筆し、別に、南城市志喜屋に伝わる、牛を犠牲とするハマエーグトゥ(浜祝い事)を実地調査し、農耕環境・村落史などと合わせてこの行事から稲作儀礼の要素を読み取る。類似性を持つウシヤキ行事にも目を配る。さらに、この行事と、牛を使った踏耕習俗との脈絡をも考えている。
 前城直子氏の論は、長い間の陰明五行思想の研究蓄積と、沖縄文化解明への思いをこめてハマエーグトゥの構造を解明したものである。中国古典に基づいて陰陽五行思想と牛の関係を厳正に追究し、琉球王朝で陰陽五行思想を導入した軌跡を追う。これらを前提としてハマエーグトゥの構造を陰陽五行思想によって明らかにしてゆくのである。そして最後に、3艘のサバニの舳先を海のかなたに向け、供物を供えて祈る対象は五行思想では解けない、古琉球以来のニライの神だという。沖縄には土着的な信仰も根強く生きているのだ。―重い1冊である。
 本書に合わせ、原田信男『なぜ命は捧げられるのか・日本の動物供犠』(御茶の水書房)も一読されたい。
(野本寛一・近畿大学名誉教授)
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 はらだ・のぶを 1949年栃木県生まれ。国士舘大学21世紀アジア学部教授。
 まえしろ・なおこ 1944年、沖縄県生まれ。国士舘大学21世紀アジア学部教授。
 みやひら・もりあき 1978年、沖縄県生まれ。沖縄国際大学総合文化学部非常勤講師。

捧げられる生命: 沖縄の動物供犠
原田 信男 宮平 盛晃 前城 直子
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