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『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』 東浩紀編

観光地化される悲劇の舞台
 この本はその名の通り、旅行ガイドでもある。27年前に原発事故を起こしたチェルノブイリが、今、観光地として注目を集め始めている。そこに行ってきましたというリポートと、みなさんも行ってみましょうという提案が中心だ。

 いまだ廃炉作業すら始まっていない4号炉や、事故当時のままの制御室、強制避難によって打ち捨てられた街……それらは我々がイメージする悲劇の舞台チェルノブイリにふさわしい光景だ。しかし、同時にそこは今もウクライナにとって重要な送電施設であり、多くの人が毎日働きにやってくる仕事場でもある。また法令を破り立入禁止区域内に自主帰還した「サマショール」と呼ばれる人々もいる。問題は解決していないけれど、進行形の日常がそこにはあるということがよく分かる。
 なぜこの本が今、発売されるのかというと、編者である思想家・批評家の東浩紀や執筆者であるジャーナリストの津田大介、社会学者の開沼博(彼らが実際にチェルノブイリを取材した)らが中心となって進められている「福島第一原発観光地化計画」というプロジェクトの一環なのである。この計画は事故から25年後の福島第一原発を観光地化しようというものだが、そのプロジェクトのための視察も兼ねた取材というわけだ。
 観光地という言葉を選択しているが故に、この計画には否定的な意見も聞かれるが、事実、チェルノブイリがそうであるように、好むと好まざるとに関わらず、歴史的な悲劇が起こってしまった場所は、時を経て観光地化する場合が多いと本書は語る。分かりやすいところで言えば国内では、広島の原爆ドームや沖縄のひめゆりの塔などだが、そのような例は世界中にあるのだ(それらを巡る旅を欧米では「ダークツーリズム」と呼ぶ)。
 しかし全ての悲劇の舞台が観光地として賑わうようになるのかというと、行くのが極端に不便だったり、何も見るべきものがなかったり、旅としての面白みに欠けるという場所ではそうはならず、そこには誰も訪れることのない小さな記念碑がポツリと立っているだけという寂しい状況になってしまう。誰も訪れない場所では悲劇の記憶や教訓を継承するのはとても難しい。なぜならそれは多くの人に忘れられている状態だからだ。そうはならないために、つまりは福島第一原発を中心とした場所が将来的に魅力的な観光地になるように、今から計画的に準備をしようというのがこのプロジェクトの狙いなわけだ。
 自分の家に帰りたくても帰れないという人がいるのに、観光だなんて! とお思いになる方こそ、ぜひ本書を手に取り、収録されているウクライナ人たちへのインタビューを読んでいただきたい。政府役人、NPO代表、ツアー会社社長など立場も様々な彼らは原発の是非に関してはそれぞれの意見を持っているが、みな一様にこう語っている。チェルブイリの本当の姿を見てもらえるのだったら、観光でもなんでもかまわない。
 行ってみたい、見てみたいという興味が持てない場所について、長い間考え続けられるほど、人間は真面目にできていないのかもしれない。
 (ゲンロン 1400円+税)=日野淳
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日野淳のプロフィル
 ひの・あつし 1976年生まれ。出版社で15年間、小説、音楽、ファッションなどの書籍・雑誌の編集に携わり、フリーランスに。今、読む必要があると大きな声で言える本だけを紹介していきたい。
(共同通信)




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日野 淳


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