『最愛の大地』 アンジーは監督としても一流を証明


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 アンジェリーナ・ジョリーの監督作だ。女優業以外でも注目を集める彼女が、国連の親善大使を務めるなど慈善活動にも力を入れていることはよく知られるところだが、“ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争”を扱った本作も、まさに彼女らしい社会派映画だ。

 紛争によって引き裂かれたカップルがたどる悲劇的な顛末が描かれる。メロドラマのような設定とサスペンスフルな展開で観客の気を引きつつも浮かび上がるのは、戦争や暴力がいかに人間性を踏みにじるかであり、実際にそこで何が起きていたのかを世に知らしめたいという彼女の強固な信念である。
 確かに映画にはメッセージを伝える力がある。けれども、そのことと作品の良し悪しは別問題。そして結論から言うと、アンジーはこの初長編で監督としても一流であることを証明してみせた。例えば、窓から推移を見つめる人物の表情と音だけでただならぬ事態を観客に想起させる場面。赤ん坊が窓から投げ捨てられるシーンも、時制と主観の操作により直接的な表現を巧妙に避けている。つまり“見せない”演出の効果である。そんな大胆にして繊細な演出が随所で見られるのだ。
 強烈なメッセージ性にばかり目が行きがちな作品だが、「本当にアンジーが自分で監督したの?」という疑問すら投げかけたくなるほど、実は演出の立った映画なのだ。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:アンジェリーナ・ジョリー
出演:ザーナ・マリアノヴィッチ、ゴラン・コスティック
8月10日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山 真也