『HOMESICK』 “ホームドラマ”の要素ד冒険映画”の面白さ


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 新しい才能の商業デビューを支えるPFFスカラシップ作品。失業した30歳の主人公が再開発で取り壊される実家に居座り、彼になつく近所のガキたちとひと夏を過ごす話で、モラトリアムな主人公が別々に暮らす家族との関係を見つめ直す“ホームドラマ”の要素と、子供と同化して遊ぶ“冒険映画”の面白さがミックスされている。

 監督は、学生時代に撮った『世界グッドモーニング!!』が評判の広原暁。画面の強度だけなら、スカラシップのレベルに納まらない出色の出来栄えである。東京芸大では優等生だったに違いないが、もはや学んで得られるレベルではない。
 その顕著な例が、主人公が住む変哲のない一軒家の撮り方だ。カメラを置ける場所が限られるロケセットの欠点を逆手にとった“繰り返し”の効果。2階の窓を使った上下の空間設計。建物と庭の配置を利用した情報の出し入れ…。さらに、固定画面と移動撮影のコントラストの妙。自転車、水鉄砲、風船など小道具の使い方もうまい。
 また、編集のリズムも巧妙で、冒険映画らしいアップテンポの中に、人物のフレームアウト後すぐにカットを変えないブレッソン的な編集が生む停滞感を紛れ込ませることで、物語の二面性と見事にリンクさせている。斬新な発想やフレッシュな感性は感じられないけれど、その分、すぐにでもメジャー映画を撮らせたくなる才能である。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:広原暁
出演:郭智博、奥田恵梨華
8月10日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山 真也