『海のがっこう』 サンゴ礁保全のヒント示す


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『海のがっこう』鹿谷法一、佐藤寛之編著 東海大学出版会・1600円

 本書は全体の3分の1が付録という、不思議な構成を取っている。これは著者の熱意のなせる親切だ。
 晴れ渡ったサンゴ礁の海を前に、心動かされない人はいない。まして、子供は大はしゃぎだ。

この感動を知識に変え、保全の動機に昇華できればサンゴ礁保全は成ったも等しい。かつて、子供たちは遊びや祭事を通じて世代を超えた共同体の記憶を体得し、地域の自然資源の管理に参加した。今では、学校に塾に部活に忙しい。2000年に総合的な学習の時間が学習指導要領へ導入され、体験学習を学校の教育課程に取り入れることが容易になり、全国で環境教育が本格的に取り組まれ始めた。サンゴ礁の環境教育もこれに連動している。
 本書の副題は教師向け企画マニュアルだ。子供たちを海へ連れ出したい先生たちには待望の書であるはずだ。第3・第4では、実践例が紹介され、準備から実施までが分かりやすく時間を追って説明されている。だが、読み進むうちに、自分にはできないとため息が出るだろう。観察会は1人ではできない。かつての共同体の祭事のように、地域のチームプレーなのだ。観察会の流れをチームのみんなが理解できたら、付録がものを言う。地域ごとに異なる多様な自然を相手に、手分けして観察会が開催できること自体が保全の具体的な行動の第一歩なのだ。マニュアル通りにいかない、その地域にあった工夫のヒントが付録にある。
 地域の自然資源の保全に最も大切なのは行動の継続性だ。学習指導報告の紹介は、先生の異動があっても観察会を継続させるばかりか、新たに観察会の指導者を目指す若い世代の育成の一助にもなろう。
 評者はかつて、海岸清掃による環境美化が環境教育と混同された現場に出会って、困惑したことがある。第2章では漂着物から人と海の多様な関わりを考える端緒を得られるようになっている。ごみとは?ごみにも物語がある!
 第1章は海に行けない時に読むのが良い。子供の目線でお話しする時の糧としよう。ただし、知識ばかりでなく遊びも自然を体得するのに必須であることをお忘れなく!
 (中野義勝・沖縄県サンゴ礁保全推進協議会会長・琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設技術専門職員)
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 しかたに・のりかず 琉球大学理学部海洋自然科学科講師退職後、しかたに自然案内を運営。
 さとう・ひろゆき 沖縄国際大学非常勤講師。

海のがっこう: 教師向け海辺の観察会企画マニュアル
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