『メキシカン・スーツケース』 キャパ目当てで見ると肩すかしを食らうかも


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 今年は20世紀を代表する報道写真家ロバート・キャパの生誕100周年。2007年にメキシコで、キャパが撮影したスペイン内戦の写真のネガが発見された。それらが収められていた3つの箱は、今では「メキシカン・スーツケース」の名で知られている。本作は、そのドキュメンタリーだ。

 だが、発見された4500枚に及ぶネガはキャパのものだけでなく、恋人だったゲルダ・タローとデヴィッド・シーモア“シム”の写真も含まれていた上、そもそも1点1点写真を検証していく内容の映画でもない。劇中ではネガの発見を「奇跡」と声高に訴えているけれども、むしろその奇跡を狂言回しに使ってスペイン内戦の裏側に迫ったドキュメンタリーと言える。キャパ目当てで見ると、肩すかしを食らうかも。
 随所に骨を掘る作業が挿入される。これは、内戦を逃れてメキシコに亡命した子孫たちが、戦った祖父の亡骸を捜す行為なのだが、もちろん内戦の真実を掘り起こすことのメタファーでもある。フランコ独裁政権による圧政を免れてメキシコで人生を謳歌する子孫たちが、「亡命できて幸せ」と口にする矛盾が胸を打つ。
 参院選で自民党が圧勝し、衆参のねじれが解消された今、安倍政権がいよいよ本性を現そうとしている。日本人が祖国を逃れなければならない日が来ないことを祈りたい。★★★☆☆(外山真也)

 【データ】
監督:トリーシャ・ジフ
音楽:マイケル・ナイマン
8月24日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山 真也